加藤アカツキ:ザンゾウアパートメント201号

第四回「初仕事(後編)」

今日も今日とてこんにちわ。加藤アカツキですよ、皆さん乗ってますか?

さてさて今回は「初仕事(後編)」と称しまして、前回から二回にわたって僕のデビュー秘話なんかを語らせてもらっているのですが、まぁあまり無駄にテキスト量を増やすわけにもいかないのでね、前回をまだお読みになってない方は、このページの一番左下にある、”前回へ”のボタンをポチッとな。

……

はい!とまぁ、そんなこんなで二人揃って呼ばれてやって参りましたは文芸社!

今回ライバルはお互い志を同じくするクラスメイト。こいつだけには負けられねぇ、どうぞ俺ッちを選んでくれよと、お互い傍らには自慢の作品集を引っさげて乗り込みました。

受付を済ますと一路エレベーターで9階へ。重厚な扉を抜けて会議室のような部屋に通されると、そこに待っていたのは二人の編集さん、そして「心霊探偵八雲」の著者である神永学氏、その人でした。いきなり現場に漂い始めるすさまじい緊張感!なんだか場違いなところに足を踏み入れてしまった気がしましたが、ここまで来てしまった以上、後には引けません。

心霊探偵八雲

まずは一通り挨拶と自己紹介を済ませると、現在の状況や、普段読んでいる本の話など、編集さんからいくつか質問を受けました。和やかな雰囲気の中、他愛のない質疑応答が進んでいきましたが、現場の空気を変えたのは、一人の編集さんが発したある一言でした。

「君たちは将来、イラストレーターとして、絵を描く仕事をするつもりなんだね?じゃあこれが決まった瞬間から君たちはプロなんだよ、やれるかい?」

そうです、競合相手の彼のことばかり気にしてしまっていましたが、もしこのコンペを勝ち取れば、その瞬間から自分はプロとして、責任ある仕事を任されることになるのです。今まで趣味の延長として、一人で楽しく描いていたこととは全く違います。何人ものスタッフが途方も無い労力を費やし、一人の作家が人生を掛けた作品に、自分もキーパーソンとして加わることになるのです。途端、とてつもない緊張感が背中を走りぬけ、このとき自分が何の覚悟も決めていないことに気づかされました。

いつかは自分も絵に関わる仕事をしたいと思っていました。でもその”いつか”は”いつか”であって今では無い、恥ずかしながら、そのときまで僕はそんな甘い心構えでいたのです。

圧倒的な責任感の前にくじけそうになりましたが、しかしこれはいつかは越えなければいけない壁!ここで折れてしまえばこの先一生仕事をもらえる機会はやってこない!そう思って、覚悟を奮い立たせます。

「やれます」

そう宣言した瞬間、この瞬間に、自分はイラストレーターになったのだと思います。

「よし」

そう言って二人の編集さんと神永氏は、最終決定のために一旦別室に移ると、結果を告げるために再び我々の元へ戻ってまいりました。 ひぃぃぃ、ついに審判のときがやってきました。今、我々二人のクラスメイトの間で今後の明暗が分かれようとしているのです。今ならドラフトのときの清原・桑田の気持ちがよく分かる…そんなことを考えていると。

「こっち」

そう言って編集が指し示したのは僕の作品集でした。

ひとまずその日は今後に向けて簡単な挨拶を済まして帰りました。

自分が選ばれた瞬間、そのときの心境も、今となってはあまり覚えていません。ただ、正直”嬉しい”とか”感慨深い”とかそういった類のものではなく、帰りの電車の中ではプレッシャーのせいから、ひたすら吐き気を我慢していました。

前回も少し触れましたが、この心霊探偵八雲、この当時で既に第1巻が四万部を売り上げていた人気作品でした。

そんな人気作品の続編の装丁画を、何のキャリアもないただの学生の僕に任せようというのです。しかも僕は昔から大舞台やイベント行事に弱く、受験当日には決まってお腹を壊すようなガラスのハートの持ち主でしたから、そりゃ緊張もするし、吐き気も催すってものでしょう。

心霊探偵八雲DVD

ともあれこれが僕の記念すべき初仕事を頂くまでの馴れ初めです。この後もさらに悪戦苦闘が続くわけなんですが、それはまたいずれ語る機会があれば…ということで。

ちなみにこの心霊探偵八雲、現在も順調にシリーズを続けており、今では本編7冊、外伝1冊で累計80万部を越える超ヒットシリーズとなっています。一昨年の春にはドラマ化、今年の春には青山円形劇場での舞台公演もあり、文庫版も発売されています。初仕事でありながら名実共に僕の代表作の一つとなったわけで、今の僕があるのもあの時の決心があったおかげだと思っています。今では例の第1巻も、僕のイラストでリニューアルカバーが巻きなおされています。もしこれを読んで興味をお持ちになられた方は、是非一度読んでみてくださいね。

それでは次回があればまたお会いしましょう。

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加藤アカツキ(かとう あかつき)
加藤アカツキ
静岡県浜松市出身、東京都杉並区在住。
明治大学理工学部にて物理学を学ぶ傍ら、アミューズメントメディア総合学院キャラクターデザイン学科に入学。在学1年目よりフリーランスのイラストレーターとして活動を始める。以後、書籍カバー、キャラクターデザイン等を中心に活躍中。
残像アパートメント(http://www.k3.dion.ne.jp/~zanzo/)
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