drawing with wacom 013 得能正太郎
こもれびの国

――得能さんが絵をお仕事にしようと思われたきっかけは?

昔から絵を描くのは好きで、高校生の時に講談社フェーマススクールの通信教育を始めてから、『季刊エス』(飛鳥新社)などにイラストを投稿して佳作くらいの賞をもらえるようになって。それで高校を卒業して美大に行こうと考えたんですが、にわかに賞をもらったせいで自分は上手いと思いこんで受験に失敗してしまい、それでも何かの間違いだと、そのまま予備校にも行かず再受験したので、当然不合格に。さすがに2浪はできないので、就活目的で専門学校のゲーム学科に行ったら、怖い先生に「お前の絵はつまらない」って叩かれて。でも、その先生に出会わなければ、今は絵を描いていなかったと思うので、結果的にはよかったなあと。

――専門学校からゲーム業界に進もうと思われていたんですか?

在学中にイラストレーターとしてデビューできたらいいなと思っていたんですけれど、やはり難しくて、ゲーム会社に就職しました。自分のいた現場は、社員が自分でデザインして3DCGも作るみたいな感じで、3Dも次世代機だと服の皺とかはノーマルマップ(疑似凹凸)で見せるので描きこむ必要がないんですが、Playstation2の頃はテクスチャで描かないといけないので面白かったです。イラストが描ける人は最終的なビジュアルが見えているので3Dでも強かったですね。

――在職中からイラストレーターとして活躍を始めていますよね。

個人で作っていたWebサイトを見た編集さんから連絡を頂いて、『銀色のソルトレージュ ひとつめの虚言』(枯野瑛/富士見ファンタジア文庫)のイラストを担当してから、昼は会社、夜はイラストという兼業を始めて、関わっていたゲームが完成したところで、そろそろイラスト一本で食べていけるだろうとフリーになりました。その頃は富士見ファンタジア文庫とソフトバンクGA文庫のお仕事をしていたんですが、会社を辞めたとたんにシリーズが終了して仕事が無くなったのにはびっくりしました(笑)。

それで、初めて同人誌を描いてコミティアとコミケに出たんです。その本を「コミックガム」(ワニブックス)の編集長が見てくれて、「3カ月後の雑誌リニューアルに合わせてカラー漫画を描いて欲しい」と言われたんですけど、漫画なんて描いたことがないので、そこから編集さんにプロットとかネームの描き方とか教わって(笑)。同人誌で描いたキャラを漫画にする形で、『こもれびの国』がスタートしました。

こもれびの国

――デジタルで絵を描き始められたのはいつ頃からですか?

高校2年生の頃にPCとFAVO(F-410)を買ったんですが、半年ほど放置していたんです。Photoshopというのがあると教えられて、ああこれはすごいと思ってPhotoshop Elementsを使い始めて。CGの描き方を基礎的なことから詳しく教えてくれるWebサイトがあってよく見ていたんですが、入門書を読むよりもネットで上手い人の絵や技を見るほうが勉強になりましたね。Intuos3が出た頃にFAVOが壊れたのでIntuos3に買い替えたんですが、会社はIntuos2のままだったので、描き味の違いに苦労しました(笑)。

――現在の作画環境はどのようになっていますか?

Cintiq21UXの前に、NECのLCD-2490wxi(1920×1200)を置いて上下でデュアルモニタにしています。PCは友人に選んでもらった物で、CPUがCore2Duoのメモリ3GB、ビデオカードがNVIDIAのGeForce9600GTで少し古めですが不満はないです。初めて店頭でCintiqを触った時に、デモ用PCの性能が低かったのか、少し反応が遅れる気がして買わずにいたんですが、ちゃんとしたビデオカードを積んだPCなら大丈夫だと教えてもらって購入しました。

得能さんの作業スペース

――Cintiq21UXにしたことで作画には何か影響がありましたか?

Intuos3からIntuos4にした時に、それまでキャンパスを100%表示で描いていた線画を、50%でも作業できるようになって、縮小表示でも細部まで描きこめる繊細さは凄いと感じたのですが、拡大せずに描けるということは、画面に直接描けるCintiq21UXでは、そのまま筆を走らせる距離の短縮になるので、実質的な作業速度が速くなりました。

筆圧はもう十分なので、あとはCintiqの画面が、近づいてもドットが見えないくらいの 解像度になってくれれば嬉しいですね。出来るだけ原稿全体を見ながら描きたいんですが、現状だと細かい描き込みにも限界があるので、拡大する必要が無くなるくらいになれば最高です。

――Cintiqのペンと芯はどれを使っていますか?

ペンは標準のもので、ストローク芯を使っています。ストローク芯は微妙なペンの入り抜き、筆圧の加減をより繊細に吸収してくれて、柔らかい線が描ける気がします。フェルト芯で描いたこともあるんですが、変わるのはあくまで描き心地で、線には影響がなかったので、ストローク芯が体に合った感じですね。

――ペンタブレットを使う上で何か工夫をされたりはしていますか。

Logicoolのゲームパッドにショートカットを登録して使っています。複数ボタン押しを登録できるので、キーボードよりも楽です。あと、Cintiqの右側にIntuos4を置いてマウス代わりに使っています。いちいちマウスに持ち替えずに、そのままペンでデュアルモニタを操作できるので。問題は、机の上にキーボードを置く場所がないので、作業中にtwitterをやりにくくなったことです(笑)。

こもれびの国より

――『こもれびの国』は月刊誌でのフルカラー漫画で作業的にも大変かと思うのですが、ワークフローはどのような感じですか?

作画だけで12日間、残りでプロットやネームを作りつつ、イラストの仕事をしています。ストーリーを考えるのが苦手なので、編集部でどんなシチュエーションなら可愛い絵になるかを相談して大筋を決めます。イラスト漫画なので絵になることが重要で、フキダシや台詞も極力少なく、コマ割りも大きくしています。家に帰ってプロットを書いて編集さんに確認してもらい、それをネームに起こしてOKが出たら作画に入ります。

――ネームの段階からデジタルで作業されているんですか。

最初からPhotoshopです。コマの移動やサイズ変更はデジタルの方が簡単です。ゲーム会社に入るまでは鉛筆で線画を描いていたんですけど、どうもスキャンした線と色が調和せずにケンカするのが気になっていて。先輩がデジタルで線を描いているのを真似してみたら、最初から両方ともデジタルなので馴染んでくれるようになりました。

――クリンナップから彩色まですべてPhotoshopですか?

基本はPhotoshopCS3で、部分的にSAIですね。アニメ塗りと肌の色、特に肌の色は微妙な調節をしたいので絶対にPhotoshopですね。これはちょっと他のツールではできません。SAIは混色が綺麗にでてくれるので、髪の毛や服の色で混色を重視したいときに使います。Photoshopのブラシの設定はだいたい線画も塗りも同じであまり変えてません。

『それがどうしたっ』より

――カラ―とモノクロ、漫画とイラストでは作業的に異なる部分はありますか?

基本的には同じですが、モノクロのペン入れだけComicstudioを使って漫画らしい線で。挿絵は1200dpiのグレースケールで入稿していて、トーン処理はせずにPhotoshopで仕上げています。漫画の方は、『こもれびの国』の連載第1話が初めて描いた漫画なので、モノクロ漫画との違いはよくわからないですね(笑)。とりあえずカラー漫画だと空白のコマがあまり使えないので、最初は構図でうまくごまかしていたんですけど、進めるうちにこういうカットはだめだなって、だんだん背景で埋め尽くされることに……。

――カラーイラスト1枚だとどれくらいの時間で描かれているんですか?

ライトノベルの表紙だと、作画だけで2日くらいです。時間をかけて描き込みすぎても絵が硬くなって、ライトノベルの中では逆に目立たなくなってしまう。ライトノベルでは映画的な引きの絵にしないとか、困ったらアップにすればいいとか、ツヤを出して光ってる感じにするとか、編集さんから色々教わりました。

――得能さんの絵は肌色の表現や光沢感が特徴的かと思いますが、いわゆる美少女ゲーム絵の塗り方などは意識されていますか?

常に意識して目立つ絵になるよう改良しています。連載の初めの頃は塗りがマットすぎるんですが、一年くらい描き続けて色味も明るくなっています。最近は、無意識に描くと眼が大きくなるので、小さく描こうと意識していますが、細かい部分でチューニングは続けています。背景は、以前は線画を描いてから塗っていましたけど、現在は最初からブラシで描いています。

――下描きなしに、いきなり色を置いて塗っているんですか。

キャラクターはレイヤを分けていますが、背景は1枚だけです。細かい部分にコピーと変形を多用しているので、いちいち線画と塗りを分けていると面倒なんですよ。ゲーム製作で、いかにコピーした部品をコピーと感じさせずに使うかという技術を叩きこまれたので、それが今も活きていますね。柱だったら一本だけ描いてあとは反転とコピーで、旗も2パターンだけ描いて、窓も真正面の一つだけ描いて後はコピーで……でなければ、細かい背景の原稿は終わらないです。

『こもれびの国』より

――『こもれびの国』は背景の絵も非常に雰囲気があって魅力的です。

洋書店でヨーロッパの街並みの写真集とかを探しまわりました。1巻の頃は資料に苦しんで、次は絶対に日本を舞台にすると言ってたんですけど、最近は慣れてきて、むしろ日本の方が描きにくい(笑)。あと『アサシン クリード2』(Ubisoft)でベネチアの街中を歩きまわったり、屋根の上に登れたりするので、城壁とか路地裏とか「ああ、こうなってるんだ」と。現実はどうかわかりませんけど、ゲームとしては説得力のある背景なので。暗殺者のゲームが萌えの漫画で役にたっています(笑)。

――時代物だと服装や小物のディティールも重要なポイントではないかと思うのですが。

そのへんはとりあえずクラシックに見えればいいということでやっています。例えば14世紀だともっとゴテゴテした服装で、ミニスカートなんてまだなくて、12世紀だとぼろ布を巻いたような服だったりで、それをリアルに描くと萌えが無くなってライトノベルの絵にならないから、14世紀風に描くみたいな感じで。漫画のために色々と調べて詳しくなりましたけど、敢えて無視することが多いです。

――もともとライトノベルとか、萌え的なものは好きだったんですか?

男の都合のいい様に動く女の子を見るとイラッとするので(笑)どちらかといえば萌えは苦手なんですよね。でも、『ARIA 』(天野こずえ)の様な漫画が好きで。この作品に触発を受けて「雰囲気のある舞台の中に女の子がいて、その一場面を切り取ってきたら絵になるよね」というのがやりたくて、『こもれびの国』の元になる同人誌を描いたんです。

もともと描いていたのは男の絵ばかりで、自分には萌えがないと思っていたんですけれど『銀月のソルトレージュ』の挿絵が可愛いと言われて。今のライトノベルでは無骨なファンタジーより学園ものの萌えが中心ですから、必然的にこの絵柄にたどりつきました。

仕事でずっと萌えっぽいものばかり観ていると疲れてしまうので、反動というか、ゲームでは海外のFPS(一人称視点のシューティングゲーム)とかTPS(後方視点のシューティングゲーム)をプレイすることが多くて、仕事は可愛いもの、プライベートは男臭いもので、心のバランスを保っている感じです(笑)。

『乱☆恋』より

――またゲームの仕事をやってみたいという気持ちは?

やりたいですが、ゲームは製作のペースが長いですし、チーム戦だから根本的な仕事のスタイルが変わってくるので。自分がゲームのデザインをするなら、できるだけ現場に出向して描きたいと思います。社内にデザイナーがいるほうが、グラフィッカーもすぐに意見が聞けるし、現場のモチベーションにもつながります。現場がどんな気持ちで作業をしているか、外にいるだけでは作っている人の顔が見えないので、末端のスタッフとして村人の色違いを作るところから、現場のチーム戦を経験したことは良かったと思います。

――これからお仕事でやっていきたいことや方向性はありますか?

原作つきで漫画を描きたいです。プロットをやりたくないので(笑)お話は誰かに考えてもらって作画に専念したいですね。

――アシスタントを入れたりはしないんですか?

フルカラー漫画だと、他の人が描いたものと合わせるのが難しいので……。アニメなら中心になる人がイメージボードを描いて、その方向性に合わせてみんなで作業するんですけど、漫画の場合はそれを描く時間で1話分の原稿が描けてしまうから、監督的なことをやっている暇があったら、今よりもっとレベルの高いものが描けるようになりたいと思います。

――最後に、得能さんにとってペンタブレットとはどのような存在ですか。

道具といってしまえばただの道具ですが、Cintiq21UXは、すごく高級なヴァイオリンみたいな感じのする、大事な道具……なくてはならないものです。もう以前の道具には戻れないですね。

インタビュー/構成:平岩真輔(twitter:@hiraiwa

得能正太郎さんサイン色紙

得能正太郎

イラストレーター・漫画家。専門学校在学中から雑誌カットなどを手掛け、卒業後はグラフィッカーとしてゲーム会社に勤務。2006年から『箱の中の天国と地獄』(矢野龍王/講談社ノベルス)カバーイラスト、『銀月のソルトレージュ』(枯野瑛/富士見ファンタジア文庫)挿絵などでイラストレーターとして活躍を始め、2008年、フリーに。『それがどうしたっ』(赤井 紅介/集英社スーパーダッシュ文庫)、『乱☆恋 婚約者は16人!?』(舞阪 洸/富士見ファンタジア文庫)などライトノベルのイラストを多数手がけるほか、「月刊コミックガム」(ワニブックス)でフルカラー漫画『こもれびの国‐le duche』を連載、この2010年12月には単行本2巻が発売され、可愛らしいキャラクターによる美麗なビジュアルと、温かみのあるストーリーがファンを魅了している。

ウェブサイト『VISION』(http://www7.ocn.ne.jp/~ppss/)

YouTubeワコムチャンルで得能正太郎さんが上のイラストを描く様子を動画配信中!

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Copyrights of pictures

  1. 『こもれびの国』(ワニブックス)2巻表紙イラスト ©Shotaro Tokuno/WANIBOOKS
  2. 『こもれびの国』(ワニブックス)1巻カバー用イラスト ©Shotaro Tokuno/WANIBOOKS
  3. 『こもれびの国』(ワニブックス)2巻カバー用イラスト ©Shotaro Tokuno/WANIBOOKS
  4. 写真:得能さんの作業環境
  5. 『こもれびの国』(ワニブックス)より ©Shotaro Tokuno/WANIBOOKS
  6. 『乱☆恋2 婚約者は16人!?』(舞阪洸/富士見ファンタジア文庫)より挿絵 ©舞阪洸・得能正太郎/富士見書房
  7. 『こもれびの国』(ワニブックス)より ©Shotaro Tokuno/WANIBOOKS
  8. 『それがどうしたっ 2 ‐天使に好かれる危険な嘘のレシピ‐』(赤井紅介/集英社スーパーダッシュ文庫)表紙イラスト ©赤井紅介・得能正太郎/集英社スーパーダッシュ文庫

Drawing with Wacom © TAMON Creative / Wacom