drawing with wacom 07 しずまよしのり
『ほうかごのロケッティア』表紙イラスト

――しずまさんがイラストレーターのお仕事をされるようになった経緯からうかがえますか。

本当に、気がついたらなっていたという感じで。高校を卒業して、専門学校のイラストレーション科に行きまして。あまり大学に興味がなかったので、絵を描いてなんとかできたらなと思って。当時はリアル志向のイラストで、マンガとかアニメではないなと。子供の頃から絵よりも立体造形が得意で、リアル寄りだったので。

専門学校を出てからは、フリーターをやっていたのですが、今までにない金額を手にするようになって、遊び呆けてしまいまして(笑)、絵はあまり描いてなかったですね。このままではまずいと思って、近所にできたパン屋で4年間、パン職人として生地をこねたり焼いたりしてましたが、パン屋が潰れてしまいまして。その頃、ちょうどPlaystation2が昇り調子で、ゲーム会社がいろいろスタッフを募集していまして。少しずつクロッキー帳に落描きをしたり、絵の具で色を塗ったりしていたものを数点持っていって、2社目で採用が決まりました。

――ゲーム自体はよくやられていたんですか?

ファミコンからスーパーファミコンにいって、『天外魔境II』のためにPCエンジンDUOを買って、それからPlaystaionですね。入社当時はRPGが勢いあったので、そういう会社がいいかなと検索して。グラフィッカーで採用されてRPGのタイトルに関われるかな思っていたんですけど、パズルゲームとかを作っていました。そのまま3DCGのデザイナーとして背景のモデルやテクスチャ、キャラクターのテクスチャやモーションをやるようになって、ゲーム中のムービーやイベントの絵コンテを切るようになって新しい道が開けましたね。その後、関わっていたプロジェクトが終わってRPGのチームに合流して、モンスターデザインや召還シーンの絵コンテやアニメーションをやりました。ここまで一切、女の子の絵は描いた記憶がないですね(笑)。

――実際に仕事をする中でスキルを身につけていったわけですね。苦労はありませんでしたか。

わからないことはすぐ上の人間に聞いて、どんどん吸収するのがベストかなと。1人で悩んでも進まないですし、結局修正されるので。2~3年かけて一人前になった感じですね。ちょうどその頃に、埼玉から電車で通勤していたんですけれど、秋葉原に大きな『苺ましまろ』の広告があったんですよ。「かわいいは正義!」というコピーをみて、ガツンときて。「あれ?リアルな絵を描いている場合じゃない!俺間違ってた!!」って(笑)。それまでモンスターを描いていて、かっこいいでしょ! っていうのはあったけど、「かわいいは正義!」と言われたらそのとおりだと。モンスターは所詮かわいいキャラ・かっこいいキャラに討伐されちゃうんですよ!(笑) 本当にそう思って、そこから研究を始めました。『To Heart2』の柚原このみを、ああ可愛いなと模写したり。ポーズなんかは自分で描けたので、目の大きさを調整して可愛く見えるようにとか、絵柄改造をしていきました。

『ただ、災厄を狩る剣のように』表紙イラスト

――イラスト投稿サイトのpixivで絵を公開するようになったのも、研究の一環として。

そうですね。投稿できるサイトがあるというので、最初は登録して見ているだけだったんですけれど、これは自分も戦わないと!って(笑)。リアル志向から改良したイラスト、特に顔のバランスを変えた自分の描く女の子が本当にかわいいのかも気になっていたので 反応を知りたかった部分もあります。それまで自分のWebサイトも作っていなかったんですけれど、2008年のお盆休みにやることがなくて、とりあえず描いてみた絵を投稿してみたら、すぐにメッセージが1件、出てきて。すぐ評価されてコメントがもらえた時はうれしくて、面白いなあと思いましたね。その頃は新しい会社に移っていたんですけれど、やはり仕事では自分のやりたいことがそのままできるわけではないので、pixivで自分の絵にダイレクトに感想をもらえるのは楽しかったですね。

――そのうちに『pixiv girls collection』などの書籍でも紹介されたり、ランキング1位を獲得したりと研究の成果が。

メイキング本で「pixiv1位はダテじゃない!」とか紹介されて、勘弁してくださいと(笑)。だんだんイラストの依頼が来るようになったので、ちゃんとした連絡先を用意しようとおもってWebサイトを作って。『萌える日本刀大全』(コアマガジン)が最初のお仕事ですね。それからメロンブックスのメロンちゃんのグッズイラストや、『ひぐらしの鳴く頃に』のアンソロジーとか。

――ライトノベルの挿絵の仕事はどのような感じで?

『pixiv年鑑2009』が出た後に、ガガガ文庫とファミ通文庫から連絡をいただいて。『ほうかごのロケッティア』(大樹連司/小学館ガガガ文庫)は、始めたときはまだ原稿が冒頭の部分しかなかったんですけれど、プロットで作者の大樹さんがキャラの大体のイメージを書かれていたので、それを元にキャラクター絵を起こしていって。初めての仕事でしたが、楽しんで描けましたね。『ただ、災厄を狩る剣のように』(アズサヨシタカ/ファミ通文庫)はファンタジーよりのデザインで、ゲームの仕事でも慣れていた感じで。

『萌える日本刀大全』より

――ゲーム会社を離れてフリーになられたのはなぜですか。

プライベートでも転機があったんですけど、月に1~2点は仕事の成果が出せるようになったので、タイミング的にフリーになるなら今かなという感じで、今のプロジェクトが終わったら会社を辞めさせてくださいと。会社での蓄積もあったし、コミケに参加して出した同人誌もそこそこ好評だったので、これなら頑張ればやっていけるかなというのもありました。

――2010年6月には、第三回英国国際マンガアート展(The Third UK International Manga Art Show)に参加されています。

deviantARTで声をかけられたんです。海外にも投稿サイトがあるんだ、みたいな感じで気楽に始めたんですけれど、世界にむいているだけあって規模がちょっと普通じゃない。pixivで70件くらいコメントがついた「桜Sky」という絵は、deviantARTだと1500件くらいのコメントがついています。最近はdeviantARTを通じて、海外からもイラストやゲームのキャラクターデザインみたいな仕事の依頼を頂けるんですけど、シナリオとか送られてきても、英語が長すぎて……本当にすみませんみたいな。

――海外のお仕事だと、英語でのコミュニケーションが必要になりますからね。

引き受けて行きたいと思っているんですが、まだ英語に弱くて。ネットに絵を公開することで、海外から仕事が舞い込んでくるのはびっくりですよね。いま12畳の部屋に住んでいるんですけど、初めて海外から依頼があったときは「12畳で世界が獲れるのか!大丈夫か!?」と思いました(笑)。

――ネットがある今の時代ならではですね。デジタル描かれるようになったのはゲーム会社に入ってからですか?

ゲーム会社に就職する少し前に、Windows98が入ったPCとIntuos2を一緒に買ったんです。バンドルのPainter Classicで適当に描いて作品を持っていこうと思っていたんですけれど、プリンターもないので持って行き様が無かったという(笑)。専門学校の頃にもPhotoshop2.5だかを使ったことがあるんですけれど、自分の写真をスキャンして指先ツールで頭を伸ばしたりとかその程度で、これで絵を描けるとは思わなかったですね。PCそのものにもあまり興味がなかったので、むしろデジタルは無しだという方向でしたね。入社してからも完全にデジタルではなくて、デザインは紙の上で作業して着色はデジタルみたいな感じです。

『学級戦争』(ビー・エヌ・エヌ新社『コミックイラストレーションガイダンス! スクールデイズ編』表紙イラスト)

――その後のペンタブレット遍歴はどのような感じですか。

Intuos2の後は、Intuos3を出てすぐに買いました。「クリスタルグレー!そういうの待ってた!」って。現在のCintiq21UXも「黒くてかっこいい!買わざるを得ない!」って(笑)。入力デバイスは重要なので、新しいのが出たらすぐ飛びつく感じです。Cintiqは最初は様子を見ていたんですけれど、ヨドバシカメラとかで何度も試し描きして面白いなと思って。紙に描くのと同じところまではいかないまでも、画面にそのまま描けるというのはキてるんじゃないかと。毎日ヨドバシに通うのも申し訳ないので買っちゃえ!みたいな感じで初期型のCintiq21UX(DTZ-2100A)を買いました。流石にここまで高いモノを買えば何か描くだろうと自分を追い込んで(笑)。

――現在の作画環境はどうなっていますか。

Windows7(64bit)のPCで、CPUがCore i7 920にメモリが12GB積んでます。最初はメーカー製PCだったんですけれど『ほうかごのロケッティア』の仕事をしている途中でマシンが死んでしまって。時間もないので会社の詳しい人に聞いて自作しました。24インチのモニターの前にCintiq21UXを寝かせて、上のほうにキーボードを置いてます。でかいNintendoDSと言っているんですけれど、デュアルモニターでSAIのナビゲータを上のモニターに映して、絵の全体を見ながら作業できるのがいいので。実際の印刷物の大きさにナビゲータのサイズをあわせて、B5ならB5の紙を当てて実寸で確認したりします。

――ツールはSAIがメインですか。

最初はPhotoshopだったんですけれど、SAIがいいと聞いて使ってみたら軽くて扱いやすかったので移行しました。どちらも慣れていて、あまり絵の質も変わらなかったのでたまにPhotoshopで全部仕上げることもあります。

『桜sky』

――Cintiq21UXを使うとき、ペンはどの芯を使われてますか?

ペン入れの時はクラシックペンにエラストマー芯で、それ以外のラフや塗りは標準芯かストローク芯ですね。Intuos4が出たときに、エラストマー芯が追加されたので試しに買ってみたらハードフェルト芯よりも抵抗があって線が安定するので気に入りました。ペンはノーマルも疲れなくていいんですけれど、クラシックペンの太さがちょうど鉛筆より少し太いくらいでいいんですよ。鉛筆みたいにもう少しペン先まで長くなってもいいかなと思います。

――ペンタブレット以外にショートカット用のサブデバイスを併用したりは?

SAIのブラシサイズの変更にGriffinTechnologyのPowerMate、Photoshop用では3DconnexionのSpaceNavigatorを使っています。ショートカットはST-A1というゲームパッドに割り当てているんですけれど、色を塗るときにははずしてしまうのでCintiqのエクスプレスパッドを拡大縮小や反転に使います。なるべくキーボードを使わないほうが作業効率がよくなるので、左手は常にサブデバイスで。漫画家の浜田よしかづさんがUSTREAMで使っているのを見て参考にしました。

――作画USTはよくご覧になられるんですか?

たまに1人で作業していて行き詰った時に見ています。人の配信を見ていると、引っ張られる感じで自分の作業も進むんですよね。そのうち自分でも作画配信をやってみようと思っています。

――作画のワークフローはどのようになっていますか。

ラフから仕上げまでフルデジタルですね。ネタ出し程度に紙に描いたものをデジカメで撮影して、それをベースにラフをクリンナップすることはあります。やはりデジタルだとやり直しが簡単にできるのが一番大きいです。アナログのときは失敗したらまた描き直しでしたから。

――デジタル作画だから表現できることみたいなものはありますか。

テクスチャとか、光とかですね。アナログだと「光っている絵」は描けないじゃないですか。デジタルはそれが可能で、しかも印刷ではなくWebで公開するとなれば、実際に光っている状態で見せることができるので、そこがだいぶ違うかなと。光の見せ方が変わってくる。印刷物だと一番明るくしても、照明の影響でどうにでも見えてしまうので。

ぷらちな2010年11月カバーイラスト

――ゲーム会社でやっていたような3DCGを2D絵に取り込んだりするようなことは?

個人で使うにはツールが高価なので……(笑)。前に3s Studio Maxの体験版で、試しに銃だけ作ってみたんですけれど、元あるポーズ絵にあわせるとなると大変で、それからやっていません。5~6分で作れるような筒と箱を組み合わせたものに、自分で線を足していった感じですけど、結局、手で描いたほうが味がありますね。普段、直線を引くときも長い線以外はなるべく息を止めて手で引いてます。それでも曲がるような線だと定規を当てていますが、Shift+ラインツールで引っ張るのは、感情の無い線が出来上がるのであまり好きじゃないんですよ。

――最近、お仕事で新しい動きはありますか。

フルカラー漫画に挑戦したんですけれど、元からあるシナリオを映像で演出するのと、漫画でシナリオを作ってコマ割するのは全然違うなと思いました。1コマをイラストみたいに描きこみすぎると、ページ全体を1枚絵として見たときに見辛くなるので、背景を簡略化するように注意したり。漫画としてみたときにバランスが取れているところまでできているかわからないですけれど……。描いている時はそのコマだけ大きくして作業しているので、どうしても他が見えなくなって、どんどん密度が高くなってしまうんですよね。

――今後、挑戦してみたいことはありますか?

カラー漫画を描いてみて、モノクロ漫画をやってみたいと思いました。ラノベの挿絵もモノクロなんですけれど、グレースケールで仕上げているので作業的にはあまりカラーとかわらない感じで。白黒二階調で仕上げるような絵でマンガをやってみたいですね。機会があれば、そのうちコミケとかで発表したいです。

――最後になりますが、しずまさんにとってペンタブレットはどのような存在ですか。

これはもう、今後も付き合っていかなければならない相棒なんで。もうずっと、一生そうじゃないですか。特に液晶ペンタブレットは慣れてしまったら板タブレットで描いていたことが信じられないですからね。

インタビュー/構成 平岩真輔(@hiraiwa)

インタビュー/構成:平岩真輔(twitter:@hiraiwa

しずまよしのりさんサイン色紙

しずまよしのり

イラストレーター。千代田工科専門学校イラストレーター科を卒業後、パン職人を経てゲーム製作会社へ。人気RPG作品のモンスターデザインや、ムービーの演出などを手がける。イラストコミュニケーションサイトpixivに投稿したイラストがランキングで1位を獲得するなど好評を得たことで、イラストレーターとしても活動をスタート。ライトのベル『ほうかごのロケッティア』(大樹連司/小学館ガガガ文庫)や『ただ、災厄を狩る剣のように ナイツ・オブ・ザ・フリークス first act』(アズサヨシタカ/ファミ通文庫)等のイラストを手がけた他、『コミックイラストレーションガイダンス! スクールデイズ編』(ビー・エヌ・エヌ新社)、 『季刊GELATIN 2011なつ』(ワニマガジン/近日発売予定)など様々なイラスト本で活躍の場を広げている。この春よりフリーとなり、その爽やかな作風でさらなる活躍が期待されるクリエイター。

ウェブサイト『PLANET MARS』(http://planet-mars.jp/)

YouTubeワコムチャンルでしずまよしのりさんが上のイラストを描く様子を動画配信中!

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  1. 『ほうかごのロケッティア』(小学館ガガガ文庫)表紙イラスト ©大樹連司・しずまよしのり/小学館
  2. 『ただ、災厄を狩る剣のように ナイツ・オブ・ザ・フリークス first ac』(ファミ通文庫)表紙イラスト ©2010 Yoshitaka Azusa・Yoshinori Shizuma/ PUBLISHED BY ENTERBRAIN, INC.
  3. 『萌える日本刀大全』(コアマガジン)より ©しずまよしのり/コアマガジン
  4. 『コミックイラストレーションガイダンス! スクールデイズ編』(ビー・エヌ・エヌ新社)表紙イラスト『学級戦争』©しずまよしのり/ビー・エヌ・エヌ新社
  5. 『桜Sky』 ©しずまよしのり
  6. 『ぷらちな』2010年11月カバーイラスト ©しずまよしのり

Drawing with Wacom © TAMON Creative / Wacom