アニメ『ペレストロイカ』青池良輔監督インタビュー 聞き手:津堅信之(アニメーション史研究)

アニメ『ペレストロイカ』青池良輔監督インタビュー 聞き手:津堅信之(アニメーション史研究)

――作品を見せていただいて面白かったのですが、キャラクターはロシア人という設定ですが、それが英語を喋って、そこに日本語字幕がついていました。あの英語のセリフについて伺いたいのですが。

ペレストロイカより

英語版を作ったときに、声優をどうしようかということになって、モントリオールの俳優から探したんですが、フランス人で英語がほとんど話せない人を選んだんです(注:モントリオールのあるケベック州は、カナダではあるがフランス語圏)。それで、キャラクターはロシア人という設定なので、「ロシア語訛りの英語をがんばって喋ってください」と指示して(笑)。それは例えば、中国人にアメリカ人のフリをして片言の日本語を喋ってください、みたいな感じなんですが、そうすると、なんとなく無国籍の英語というか、グンニャリした英語ができて、英語のネイティヴの人が聞くと、ものすごく気持ち悪い英語になっているそうです(笑)。自分の中では、ヘンなものを組み合わせて一つの形になればいいかなと考えたんです。

――『ペレストロイカ』は、世界4大アニメ映画祭のうちの3つ、アヌシー、オタワ、ザグレブで、いずれも入選しています。映画祭ではどんなふうに受け入れられたんですか?

意外にすんなりウケていましたね。ロシアの映画祭にも出して、そこへは怖くて行かなかったんですが(笑)。ちょっといやらしい話なんですが、映画祭に出したいと思って作ったら入選するのかという実験的な要素もあって出したんです。映画祭の価値を知りたかった。ここに出せば自分はどんな気持ちになるのかと。で、なるほど行ってみれば映画祭の世界もそこにあるし、出して見てきてよかったなあと思いました。つまり、いろんな国の人と話をしていると、「アニメ映画祭サーキット」の中でも生きていけるなというのが見えてきて、そこに作品を出して、交流してという道も見えてきて、面白かったです。

ペレストロイカより

――私も広島で開催されているアニメ映画祭には毎回見に行って、いろいろな作品があるのが面白いと思うのですが、いつも気になるのは、『ペレストロイカ』のような、2分とか3分とかのショートフィルムで大笑いさせてくれる作品というのが、日本からあまり出品されていないことなんです。

ああ、肩の力が抜けきっていないということですよね。みんな、せっかく作るんだからと力が入ってしまって。

――私は大学でアニメを作っている学生に接していて思うんですが、少なくとも、ショートギャグを好んで作っているという学生は、あまりいないですね。

もちろん今はコンピュータの技術が進んで、アニメを作りやすくはなっています。それで、みんな、観客の見る眼が厳しくなっているという思い込みがあると思います。テレビアニメの本数もすごく多いし、自分が目指すものはテレビアニメクオリティだったりして、萎縮してしまって、1コマたりとも作れないみたいな。でも、思い切って作って、インターネットにアップして、そこでボコボコにたたかれて、2度と作れないみたいになって。一昔前なら、上映会で見せるしかなかったじゃないですか。上映会にくる人って、それを目的に来ているから、くだらないネタまで笑ってくれて。そういう場があるといいのかなと思います。ちゃんと顔が見えるような形で。ネットで見せるのと上映会で見せるのとは全然違いますし。だから、一番重要なのは、作ったものを観客に見てもらって、誰かに笑ってもらったときの嬉しさというのは、実際に作らないとわからないじゃないですか。これは、なかなか口で言ってもわからない。だから、学校とかが、どんどん上映する場所を貸せばいいんじゃないでしょうか。

――そうやって衆目のもとで上映して、ぜんぜん受けなかったら、どうすればいいんですか?

青池監督

それはもう猛省ですよ(笑)。それで、なぜ受けなかったのかは、自分の中で考えるよりも、お客に聞いたほうがいいと思います。ぼくも、大学の卒業制作で、2年間かけて100分の映画を作ったんです。スタッフも20人くらいいて。で、2年間がんばって完成したら、ぜんぜん面白くない作品になってしまったんです。それで、スタッフのみんなに謝って、みんなはいろいろ言ってくれたんですが、ぼくは、そういうことを経験したので、すごくラッキーなことだと思っています。

――最後になりましたが、そんな若いクリエイター向けに、「ショートギャグの作り方」みたいなものを伺えればと思います。

身内じゃない人、友達じゃない人、大阪人じゃない人、日本人じゃない人、そういう人たちが笑う作品を作ること、つまり、どんどん内輪ネタを削り取って、最終的に2分くらいの長さで作るとしたら、何が面白いかということをひたすら考えることですね。もちろん、既存のアニメのパロディなんかは最初に排除して。たぶんそういう考え方で作っていくと、視野がぐっと広がると思います。

――ありがとうございました。

(2008年9月1日 東宝日比谷ビル会議室にて収録)

インタビュー/構成:津堅信之(アニメーション史研究)

⇒次ページ:津堅信之さんによる『ペレストロイカ』作品紹介

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