「アニメ」で生きていくということ・谷口悟朗監督×ヤマサキオサム監督ロング対談第一回

■「情熱」を燃やすということ

――業界の中しか目に入っていないのでしょうか。

ヤマサキ 大学に入った瞬間に、その先にあった目標を忘れて燃え尽きちゃうようなことと似ているんでしょうか?

でも、少しフォローをすると、そういう経験は僕もないことはない。ただ、そのたびにどこかで「しまった!」と思うきっかけがあるんだと思う。多分。皆あるんじゃないかな。本来、一個作品を作ることも「目標」だったりするから、やっぱり終わった時には燃え尽きますよね。

谷口 そうですね。

対談第二回

ヤマサキ そこで「燃え尽きたな」と思っても、監督というのはいろんな評価をされていくので、おき火のように焼かれてくるわけですよね。そうすると、もう1回リベンジしたい気持ちが盛り上がってくる。だから次がやれるんじゃないかと思うけど。そういうものではないのかな?

谷口 たしかに、「情熱にも寿命がある」ということは意識しておくといいかもしれませんね。業界に入って、即戦力になるような人……最近だと声優にはそういうタイプが多いですが、おそらくそういう方は潰れる可能性大ですよね。結局、誰かのものまねで売れているだけですから。

誤解がないように言えば、ものまねすること自体は悪くないんです。基礎はそれで身につければいいし、それで手にした評価も大切です。ただ、それはあくまで「今の評価」にすぎなくて、そこからきちんと勉強し続けていかないと5年、10年、20年とは残っていけない。

個人はもちろん、学校や業界を含めたシステム全体でも、長期展望での人材育成をどうするかという形の発想をしていかないと、今後は相当きつくなるだろうなと感じています。

――なるほど。

谷口 ただ、補足すると、短い情熱で終わってしまう人を駄目だと言っているつもりもないんです。

私の知り合いでも「1本でいいから監督させてくれ」といって、とにかくやりたいようにやって、大赤字をだしたけど作品を作りきって、本人は満足しているってタイプの人もいます。私、それはそれで本当に立派だと思うんです。対して、情熱が続く人もいます。

――印象に残っておられる方はいらっしゃいますか?

塩山紀生
アニメーター、イラストレーター。重厚なメカニック描写とキャラクター造形で幅広い人気を集める。代表作に『装甲騎兵ボトムズ』『鎧伝サムライトルーパー』など。谷口監督の『無限のリヴァイアス』に原画で参加。

谷口 アニメーターの塩山紀生さんという、大ベテランの方がいらっしゃいますよね。その方と初めて仕事させていただいた時、びっくりしたんです。

アニメーターの“線”というものは、時代によって流行があります。その時も、塩山さんの線がどうしても時代とややずれてしまわれているところがあって、塩山さんよりもはるかに若い方が、塩山さんの描かれたレイアウトを全面的に描きなおされていたんです。

で、自分の絵が跡形も残っていないレイアウトが手元に戻ってきて、そこから原画の作業に入られたわけですが、私がびっくりしたのは、原画が上がった時なんです。自分よりもはるかにキャリアが浅くて若い作(画)監(督)さんが描きなおしたレイアウトを、塩山さんがぜんぶ上からトレースしなおされていたんです。

――それはどういう意図があるのでしょう?

谷口 要するに、今の線を勉強しなおしたいということです。私、ここまでやっている若手のアニメーターを見たことがありません。あれだけキャリアがある人が今でも新しい線を吸収したいと思う。それこそ情熱が持続している証拠だと思うんですよね。

その生き方は尊敬に値しますよね。情熱の短長は個人的な適性の問題だとは思いつつも。

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