さらなる存在感を発揮していくサンジゲン
――最近の大きなお仕事としては、『映画 プリキュアオールスターズDX3 未来に届け!世界をつなぐ☆虹色の花』のOP映像がありますね。これは歴代プリキュアシリーズのOP作画が3DCGで再現されるという、これまたすごい内容のもので。
松浦 あれは評判が良くて嬉しかったですね。狙いとしては、『プリキュアオールスターズDX2』までの3DCGの真逆のことをやらせてもらおうと思ったんです。お話をいただいたときは、『DX2』の延長での依頼だったのですが、サンジゲンに任せてもらえるなら、ウチなりのテイストでやらせてくれたほうが絶対にいいものになる自信がある、とプロデューサーと監督に説明したんですよね。大変でしたけど、作れば作るほど、自分たちのやり方が間違っていなかったと確信を得るような仕事でした。
――本当に、「プリキュア」シリーズのいちファンとして唸る内容でした。今年を代表するヒット作のひとつ『TIGER&BUNNY』では、登場するヒーローのアクションシーンを全て3DCGでご担当されていますね。
松浦 『TIGER&BUNNY』は、最初に企画のお話をいただいたのは2、3年前で、そのときからスーツアクションは3DCGでやることが決まっていたんですよ。実はBG(背景美術)もCGでやって欲しいという依頼だったのですが、それはいろいろと考えると厳しい、ということで現在の形になりました。
――プレイスメントの面で、ヒーローのスーツにスポンサーロゴを入れるという面白いことをやっていますよね。そのロゴが2クール目から増えたりもして。
松浦 そこに関しては、日本企業のロゴをつけたままだと海外で放映できないこともあって、簡単に張り替えられるように、ロゴを貼っていないキャラクターをまず作成したりしていますね。
――この作品も、フレキシブルな対応ができる3DCGならではのものなんですね。逆に、スーツアクションがすべて3DCGであることで、ご苦労された点はあるのでしょうか?
松浦 そうですね……アクションではない、普通の芝居をCGでやれるかどうかは気にかかりました。僕らとしてはとにかくやってみたいけれど、できるのだろうか? と。あとは、ちょっと事情があって、1話あたりの3DCGカット数の平均が、予定の2倍の100カットくらいになってしまったんです。なのに、作品の予算は変わらなくて(苦笑)。そこで折り合いをつけるために、コストや生産性を考え直したんです。撮影さんとのあいだで効率のいいシステムを作ったりして、とにかく僕らはアニメーションを作ることに集中できるようにした。そうしたところが大変でしたね。
――そこで「できない」と言うのではなく、制作システムの効率化にまで踏み込んだお仕事をされるのがサンジゲン流という気がしますね。この社風はどこから来ているものなのでしょう?
松浦 僕自身が、ツールそのものも好きだし、あるツールを使ったワークフローを考えることが好きだからでしょうね。実は今、プログラマーさんを雇って、ツールの開発もしてもらっているんですよ。
――おお、それはすごい。それはまたなぜ?
松浦 3DCGのデザイナーさんって、自分の認めたツールしか使おうとしてくれないところがあるんですよ(笑)。だから、(同じ仕事をしていても)デザイナーさんごとに使っているプラグインが違ったりする。僕はそういうことが嫌いなんですね。良いツールがあればみんなで使うべきだと思う。ワークフローについても、どこかのシステムを借りてきただけの、安易な分業制にはしたくない。そのための自社開発ですね。
――サンジゲンは最近、撮影部も作られましたよね。これはどうしてですか?
松浦 アニメの制作にCGが占める割合は、これからさらに爆発的に増えるでしょうが、CGをやっている人間の数は、しばらくは現状のままだと思うんです。つまり、しばらくはサンジゲンにアニメのCGはかかっているのかな、と感じるんですよ。自分でも、これからもアニメ業界に対して色々と仕掛けていくつもりもある。そう考えたときに、より一層の専門性が求められると考えたんですね。
――専門性、ですか。
松浦 そう考えたときに、今のアニメの撮影さんは、普通のアニメに特化していると思ったんです。つまり、普通のアニメについての専門性を持っている。それなら、サンジゲンは、CGに特化した撮影部を作って、CGに関する撮影の専門性を手に入れようと考えたんです。
――なるほど。それは具体的にはどういった「撮影」になるのでしょう?
松浦 例えば、3DCGデータのレンダリングを撮影がやる、とかですね。
――ほうほう。
松浦 これまでは、レンダリングされた3DCGの素材を撮影が組み合わせるやり方だったんです。でもそれより、撮影が自分が合成したいように素材を分けて、それをレンダリングするやり方のほうが、効率がいいと思うんですよね。だから、実はサンジゲンは次に、ソフトウェア上でAfterEffectsの処理ができるCG作成ツールを導入しようとしているんですよ。それを導入すれば、最初から3DCGと他の素材が組みあがったデータを描きだせるようになって、一気に作業がシームレスになる。シームレスになって、効率化されれば、より絵づくりの部分に踏み込んだ仕事ができるようになると思っています。
――作画・撮影の区別なく、スタッフ全体で最終的な画面作りに関わっていけるようになるということですか?
松浦 そうです。今でも、撮影の人間でもCGが描けるし、逆にCGの人間も撮影の仕事ができるような環境をつくってはいるんですよ。実際、『輪るピングドラム』では、CG部門の人間が撮影をやったりもしています。そのほうが発見も多いし、面白いですよ。個人的には、ひとりのスタッフが、撮影としての仕事が3割、CGの仕事が7割、というバランスで仕事をするのがいいと思うんです。それを業界のスタンダードにしてしまいたい。そうすれば、のちのちウチも楽になりますからね(笑)。
――従来の、専門技能を突き詰めていくような人材育成とは異なる育成方法をとられているわけですね。
松浦 もともとサンジゲンは、スタジオの一階は新人と若手、ニ階は中堅とベテラン、という風に場所を分けて、とにかく一階の人間にはニ階に上がることを目指してもらう、そのための段階的なマニュアルも作る……という育成システムをとっているんです。
――面白いですね。それはなぜですか?
松浦 最初は新人をベテランの横につけることで育てようとしたんです。でもそれではダメだったんですよね。サンジゲンのベテランには、「世界一の絵を作る」という意識で仕事をしてもらっていますから、入ってきたばかりの新人では、同じ目標は見られない。そうすると、見えているものが違いすぎて、会話が生まれないんです。
――なるほど。
松浦 それよりも、新人や、立場の近い若手同士でまとまって、そのあいだで別の目標を作ったほうがわかりやすい。しかも、教えてくれる人がいないと、自分たちでなんとかしなくちゃ! という意識も生まれるんです。また、ベテランも、能力が近い人同士で集まっていると、競争意識が湧いたり、もっと工夫しようという意欲が湧くんですよね。
――アニメ業界はまだ「新人はベテランの仕事を見て盗め」という空気が全体的に強いと思いますから、それは画期的なやり方ですね。
松浦 職人やクリエイターを育てるという意味では、「見て盗め」というやり方が、今でも一番いいと思うんですけどね。でもそれでは、産業にはならないですよね。CGの仕事は、道具もPCという特別なものではないし、教えればルーチンワークは誰でもできるようになるんですから、そこを活かした仕組みを考えないとな、と思うんです。