ニトロプラス キラル・でじたろう&淵井鏑インタビュー

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■『咎狗の血』――男同士のぶつかり合い/極限状態の激情と執着

咎狗の血(Amazon)

咎狗の血パッケージ画像

©Nitroplus / HOBIBOX

――とはいえ『咎狗の血』の開発がスタートした時点では、BLゲーム市場はまだまだ発展途上。そうした市場に参入するのは大変な冒険ではなかったでしょうか?

でじたろう:あるジャンル、ある市場が活性化するために必要なのは、自分の趣味性をカミングアウトできるかどうかにかかっていると思うんです。胸をはって堂々と「私はコレが好きだ!」といえるか。関連商品が目の前におかれていたとして、恥ずかしくなく買えるか。

『咎狗の血』の開発を始めた2004年は「腐女子」や「乙女ロード」なんて言葉が使われだし、あるいは実際に、そうした女性向けのアイテムを取り扱うお店なども整備されてきたことで、少しずつ女性が自分の趣味を公言できるようになってきていた時期でした。

――もともとコミケなどでは、やおいのような女性向けジャンルが盛んでしたが、“腐女子”という自称にも見て取れるように、体外的には少し後ろめたいイメージを含んだものでしたね。

でじたろう:自分が「いける!」と確信したのは、その年の春に『今日からマ王!』がNHKでアニメになると聞いた瞬間です。「まるマ」シリーズは、BLというわけではありませんが、「BLっぽさ」はありますよね。原作小説を読んでいる読者の多くはBLと親和性が高い。

今日からマ王!
喬林知のライトノベル(角川ビーンズ文庫)。突然、異世界に流された高校生・渋谷有利が、眞魔国を収める魔王として、魔族と人間の間で戸惑いながらも成長していく。ボーイズラブ作品も手がける漫画家、松本テマリによる美形の男性キャラクターも人気。
  1. まるマ公式サイト:眞魔国王立広報室
    http://www.maru-ma.com/

持論として「オタクのムーブメントはNHKが作ってきた」というのがあるんです。『風の谷のナウシカ』や『千と千尋の神隠し』で誰もが知る監督となった宮崎駿が、最初に大きな注目を集めるようになったのもNHKアニメ『未来少年コナン』だし、また『新世紀エヴァンゲリオン』を作ったガイナックスが一般に注目されたのも、同じくNHKで放送された『不思議の海のナディア』が大きい。あるいは、ロリっぽいキャラクターというものがものすごく盛り上がったのも『カードキャプターさくら』からだと思うんですね。

もちろん、コアなファンの間では以前から親しまれてきたものがほとんどですが、NHKをきっかけとして急速にオタクたちの中で一般化した。それはやっぱり、NHKで放送された、ということで「俺はコレが好きだ!」と大声でいえるようになったからだと思うんですね。

そういう意味で、2004年は、BLのひとつのターニングポイントになった年だと思います。

――こうして制作されることになったNitro+CHiRALブランドの第一弾『咎狗の血』は、BLゲームとしては異例の大ヒットを記録します。

Lamento

物語の舞台は、第三次世界大戦(THE 3RD DIVISON)後の日本。
敗戦によって、日本は東西に分断。かつて首都であったトウキョウは壊滅し、その一地区である「トシマ」は、犯罪組織「ヴィスキオ」に支配される無法地帯に。「イグラ」。それはトシマで行われる、命を懸けたバトルゲーム。勝者に与えられる報酬は、トシマの支配者「イルレ」の座への挑戦権。そして、敗者に与えられるのは、勝者への絶対服従と――死。
政府関係者の陰謀により無実の罪によって勾留された無敗のストリートファイター・アキラは、無罪放免の条件に、「ヴィスキオ」壊滅を目指し「イグラ」へ参加することになる……。

――ハードでシリアスな世界設定のもと、血と暴力が飛び交い、そして愛と狂気が交差する物語です。BLとしては異色のこのテイストは、どのように導き出されたのでしょうか?

咎狗の血スクリーンショット

淵井:BLっていうと、学園を舞台に男の子同士のラブストーリーを描いているライトなものが主流なんですね。だけどそうじゃなくて、男同士だからこそ成り立つ関係が描いてみたいと思いました。たとえば男同士が憎みあいながらも惹かれあう、とか、あるいは親友同士が本気で殴りあう、とかって男性のあいだでしかありえない関係だと思うんですね。女性は、そういう「男の間でしかありえない関係」にすごく惹かれる部分がある。そういうものを描くために、必然的にぶつかりあうしかない、ハードな世界観になっていったんです。

CHiRALのゲームのキャラが、女の子っぽい外見、女の子っぽい声のキャラクターではなく、普通の男の子、普通の男っぽい声を使っているのも、そういう点からなんです。

――無法都市の物語だけに、暴力や殺人はもちろん、人体改造や麻薬など、きわめて凄惨な描写も少なくありません。

淵井:ハードな表現を嫌がる方もいらっしゃるんですけど、拒否されることを考えてしまうと、やりたことをやりきれないんじゃないかと思いました。だから、もう、やりたいことをやってしまえ、という感じでした。

咎狗の血スクリーンショット

そういう残虐な行為を通してしか表現できない「関係」ってあると思うんです。ある人が好きで、好きすぎるがゆえに相手を殺してしまう。そういう行動も作中では描かれます。それはたしかに、傍から見ればおかしいですよね。でも、本人としてはすごく真剣に考え抜いた末に、そこにたどり着くしかなかった。

極限状態におかれてふっきれてしまった感情が、相手への執着につながってしまった時、そこにはどんな関係、どんなぶつかり合いが生まれるかを描きたかったんです。

とはいえ、好き勝手やってしまった作品が受け入れてもらえたのは、原画のたたなかなの力も大きかったと思います。残酷なシーンであっても、とても美しく描いてくれた。もしも、劇画調だったら、だれも買ってくれなかったかもしれません(笑)。

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