【ぷらちな】アニメ新表現宣言!新房監督作品の奥にアニメ表現の最先端を見た!『さよなら絶望先生』シャフト《前編》

シャフトインタビュー《前編》

■SHAFTという「場」

――ちょうどSHAFTに参加された時期を境に、新房さんの演出スタイルが若干変化した印象を受けたのですが、アイデアが自由に出せる環境になったからですか?

新房 それは周りに任せる部分が増えたからかな。作品の幅を広げるために、皆の力を取り入れて創る方が今は楽しいんです。

絵コンテ

大沼 新房さんのオーダーを受けて、自分や尾石さんといった演出が動くんですが、演出もまた、別の部署の方にお願いしていくことが多いんですね。そういった意味で、SHAFTは各部署にいたるまで個人の作家性を重視している会社ですよね。

新房 分担ができるのは、作品作りにおいて押さえておくべきところをこちらがわかってきたというのも大きいよ。何もかも指示を出さなくても、そこを抑えておけば自分のやりたいことが表現できる、というポイントがわかってきたんですね。

大沼 作品を作り続けていくことで、スタイルを蓄積していっているんでしょうね。その結果、社風のようなものがある程度できてきた。ですから、以前なら細かく指示していたところも、今では最小の指示でお願いできる。その分、浮いた労力を他の部分に使えるようになって、表現の幅を広げていけるようになったと思います。

絶望先生の絵コンテ

新房 スケジュールはいつも厳しいけれども、心の余裕が出てきたのかもね。

尾石 余裕ないです! いつもいっぱいいっぱいですよ!(笑)

新房 ごめん(笑)。いい形で遊び心が出てきた、とでもいうのかな。

尾石 それは監督が変なことをやるのが大好きだからでしょう。そうくるか、だったら俺たちも……という風にだんだんおかしくなってきている気がします。

大沼 スタッフ各人がすごく天邪鬼だと思いますよ。当たり前のことをやりたくない。スタンダードな作りの方が良いところはスタンダードにしますけれども。

尾石 やはり観てくださるお客さんをとにかく喜ばせたいというのがありますからね。

新房 そうだね。「面白い」でも「つまらない」でも「怖い」でもなんでもいいから、観ることで感情が動く作品がいいよね。外すなら思い切り外すのがいい。

大沼 作品を作るときは「直球」か「大外し」しかないですよね。

尾石 SHAFTは本当にギリギリまでやらせてくれるところだから、それができますよね。ここまで無茶苦茶できる会社というのは他にはないと思います。

シャフト作画部

大沼 チキンレースもいいところですからね。作り手のわがままに付き合ってくれるので、こちらも頑張るし、クオリティを落とさないようにもしなければとも思います。それでどこまでできるのか、ということは問題になりますが。

――SHAFT作品では、画面から現場が作品作りを面白がっている雰囲気が伝わってきます。こうした、「社風」みたいなものはどこから生まれてくるのでしょう?

新房 規模があまり大きくないことかな。別に大きい会社が駄目ということでもないんだけれども。

尾石 小回りが利きますよね。

大沼 なんだかんだ言っても、アニメ作りは多人数作業になっていくものなので、意思統一ができて小回りが利くというのは重要ですよね。普通なら止められるようなアイデアをがんばって実現していくためには。

尾石 今は非常に多い本数アニメが放送されているのだから、こういうアニメが1本くらいあってもいいのかなと。自分たちが非常にアウトローな存在だということは自覚しています。

新房 久保田社長と現場の人間の距離が近いこともいいんでしょうね。

尾石 久保田さんの感覚は作り手側の感覚なんだと思いますね。

新房 そういう人が上にいるかどうかが重要なのかな。会社単位の話でいえば、普通は会社に所属している原画マンって育ちにくいところがあるんだけど、SHAFTは所属の原画マンがきちんと育つ会社なんだよね。不思議なことに。

ネギま!?場面写依頼中…

大沼 『ネギま!?』14話の空を落ちながらクラス全員と契約するシーンなんかは、阿部厳一郎という、信頼できる原画マンの存在がまず前提としてあって、そこから進行がスタートしているんですよ。「彼ならあのシーンはできるけど、そのためには作業の時間を作らなければいけないから、他の部分を前倒しにしよう」とか。

新房 原画が育つ土壌というのは、演出と同じように、自由であることが必要なんだろうね。そうでないと育たない。

大沼 自分のやりたいものを出す中でしか伸びないですよ。ちょっと感覚的な話でピンとこないかもしれないですが、仕事をするよりも落書きをした方が伸びる。仕事と落書きをうまくかみ合わせていくためには、あれをやってくれ、これをやってくれではなくて、ノビノビとやらせてあげないといけない。演出という面でも、そういう自由から出てくるものに寄りかかれる部分はありますね。

■そして『さよなら絶望先生』へ……(序)

――そうしていろいろ積み重ねたてきた中、SHAFTの持ち味を存分に生かせるような作品である『さよなら絶望先生』のアニメ化の話がSHAFTに来た、と。

さよなら絶望先生

尾石 正直、お話が来たときには意外性がないと思われるんじゃないかと心配なくらいでした(笑)。実は久米田先生もそう感じられたそうで。

大沼 自分はそこまで深く『さよなら絶望先生』に関わっていないんですけれども、デザイン的なセンスや、ネタの感覚は、自分たちと同じ方向を向いている作品じゃないかな、と思います。

新房 僕は最近は久米田先生の描くキャラがお気に入りですね。

大沼 色気がありますよね。

新房 「萌えるアニメ」だと思っていますから。まずはこの作品をきちんと作ることが大事ですが、他にも久米田さんのキャラクターデザインでなにか作品をやってみたい、と思うくらいに気に入ってます。

ここで、『絶望先生』の話は後半に続きます。絶望した!あざとい引きに絶望した!

(2007年7月17日収録)

インタビュー/構成:前田久 平岩真輔

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©赤松健・講談社/関東魔法協会・テレビ東京
©久米田康治・講談社/さよなら絶望先生製作委員会




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