「糸曽賢志の一方通行なおしゃべり」

第三十三回「アニメ演出のお仕事って…02CT」

皆さん、こんにちは。人によってはこんばんは。 糸曽 賢志(いとそ けんじ)です。

相変わらず寒い日が続いていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか? ボクの演出担当させて頂いた『メイプルストーリー』の放映も無事終わり一安心しております。

さてさて、それでは今回も前回の続きで「アニメ制作における演出の仕事内容」を話してみようと思っています。

テーマは「カッティング作業について(以下CT)」。

カッティングというのは、簡単にいうと尺を伸ばしたり縮めたりを行って、尺をぴったりにあわせる作業です。

前回も書かせていただきましたが、テレビ作品の場合、総尺やAパート(CMが入る前までの前半)やBパート (エンディングまでの後半)の尺がすべて決められているので、最初にある程度何分になるかを把握しておく必要があり、 絵コンテやレイアウトをもとに簡単な動きをつけて一度編集を行うのです。

この際、レイアウトやラフな状態の原画でもあれば、動きやタイミングも計りやすいのですが、スケジュールが 遅れていたりすると全て絵コンテで編集を行うことになります。

そうなってしまうと、結構大変。 演出の方で、絵コンテをもとにCT用タイムシートを作成なければならないからです。

タイムウォッチを片手にセリフを口に出してタイムシートをつけて、タイミングと尺を決め込んでいきます。

今回の場合は、絵コンテが予定より遅れた影響もあり、300カット中270カットのレイアウトが上がって来ていなかったので、 3日くらいで全部のタイムシートをつけることになり、泣きそうになりながら作業したのを覚えています。

また、実際のCT作業中には編集のご担当者さんから「この絵コンテのこのキャラはここまで何歩走りますか?」とか、 「この打撃連打は何発くらいですか?」とか質問を頂くのですが、あまり想定できていなかったシーンだとその場で絵コンテだけの 情報から即座に判断したりしなければいけなかったりもします。

そして、このカッティングで決めた尺は、もうこの後に変更しないことが基本になってくるのも問題です。

絵コンテ時にこういう風に動かそうとイメージを持っていても、いざ原画が上がってくるとぜんぜん違ったり、尺が原画の都合上 変えてあったりすることもあるので、そういう時は演出の方が調整しなければならなかったりもします。

CT

でも逆を言うと、このCT作業のおかげで全体の流れやタイミングなどを掴みやすくなり、メインスタッフの方々が共通認識を持って 作業に臨めるので非常に面白い工程だとも感じました。

一番思い出深いのは、この「メイプルストーリー」のCT作業中に、すぐ横のパソコンで「カイジ」のCTが行われていたことです。 「友情だ!」的な子供向け王道的なことを語っているメイプルの横で、「とどのつまり金がすべて」的なナレーションを流されると そっちのセリフが重すぎて、メイプルに集中できないのです……。

今となっては良い思い出ですが。

さてさて、そしてこの「CT作業」が終了するといよいよ原画をチェックする作業に移ることになるのですが……、その話の前に 次回のコラムでは「演出打合せ」や「作画打合せ」について書かせていただきます。

ホントは順序的に言うとこの打合せは、絵コンテ終了後にすぐ行うことなので、CTより早く書いた方が良かったのですが、前回の コラムで勢いあまってCTの話しますと言ってしまったので順序が前後してしまいました。

それでは、この辺でひとりごとを終わりにしたいと思います。 お目に触れた方にとって、何かが少しでも伝わっていれば、幸いです。

では皆様、またお会いしましょう。

いとそ けんじ

糸曽 賢志(いとそ けんじ)
糸曽 賢志
1978年、広島生まれ。東京造形大学在学中に、アニメ制作会社でアニメーション制作に参加。 20歳で巨匠宮崎駿の弟子となり、ジブリ演出を学ぶ。 大学卒業後はゲーム会社に入社し、イラスト、グラフィックデザイン等に従事。 現在はフリーの映像作家として実写・アニメーションを中心に活動している。 2005年より早稲田大学、本庄市、日本映画監督協会の支援を受けて個人アニメーション制作に取り組みつつ、早稲田大学内に置かれた自らの研究室で、映像を研究。 文化庁新進芸術家国内研修員にも認定されており、今、最も期待されている若手映画監督の一人である。
加藤英美里×糸曽賢志アニメ 『コルボッコロ』完成インタビュー
クリエイター糸曽賢志がもっとよくわかる!ロングインタビュー
糸曽賢志オフィシャルウェブサイト(http://www.itoso.net/)
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