「糸曽賢志の一方通行なおしゃべり」
連載第四十二回「アニメ演出のお仕事って…09完成」
皆さん、こんにちは。人によってはこんばんは。
糸曽 賢志(いとそ けんじ)です。
寒いですねー、最近。。皆様はいかがお過ごしでしょうか?
最近のボクの近況はといえば、映画祭に参加したり来年放映予定のテレビシリーズアニメ『じんじゃーまん』の制作に追われておりました。
このアニメは、冷蔵庫の野菜室を舞台に、ヘタレなしょうがヒーロー「じんじゃーまん」とその周りの不愉快な仲間たちを中心にお話が進む全12話(テレビでは11話まで放映し、残りは劇場で上映)となっております。
1話5分のお話なのですが、アニメの制作人数が5人だったので、1人あたり2話~3話を制作した感じです。
少人数で制作すると大変なことも多いですが、責任を持ってやれることも多く納得出来ることは増える気はします。
今後、このアニメのメイキングも書いていこうと思うので、ご興味のある方は是非ご覧ください。
さてさて、本題の演出のお仕事シリーズ9回目のテーマは「オールラッシュ」についてです。
前回は修正作業やチェック、撮影のお話をさせていただきましたが、今回はオールラッシュにむけてのお話をさせて頂こうと思います。
ちなみに「オールラッシュ」とは監督や作画監督、演出といったたくさんの人たちが集まって、みんなで出来ているムービーを見ること。
何度も一時停止や巻き戻しを繰り返しながらムービーを見て、おかしな所があれば修正箇所を割り出します。
今まで散々チェックしていたつもりなのに、意外とこの時点で修正点が見つかるので焦ります。
あまりにもひどい問題が見つかるとちょっと厳しいですが、普通はそういう問題は今までに修正されているはずなので、オールラッシュ後すぐにアニメーターや背景、撮影担当の方々にそれぞれの修正箇所を伝え、数日でどんどん直すのです。
でも、この作業が本当に大変。 細かいのも含め何十カットも修正しなければならないので、メモしながら確認していても、さすがにテンパってきます。
大半が、色塗りミスとか撮影ミスなので、その辺は時間もそんなにかかりませんがアニメーション自体がおかしい時は原画から直さなきゃいけないので大変。
あとは口パクがずれてたりするカットも出てくるので、そういうものはタイムシートを直したりもしていきます。
ちなみに今までボクが経験した最悪の状況は、1日で50カットくらいの修正が必要になり、徹夜でメインスタッフ全員が作業したことがあります。 最後の方とか、作画監督が動画まで書いてたこともあった気が……。
そうやって出来たものを、再度スタッフ全員で確認し、OKが出次第「ダビング」を行います。
ダビングとは、専用スタジオに入ってテレビの放映用に合わせたフォーマットにして業務用テープに書き出す作業のこと。
これが終われば、完成。あとはテレビ局にテープ納品するだけです。 こうしてテレビアニメは放送ギリギリに完成し、皆に見ていただけるようになるのです。
そして完成したその日は、久々に布団でゆっくり寝られます。
さてさて、というわけで今回で商業アニメにおける演出のお仕事についてのお話しはおしまい。 少しはアニメーションの作業工程がわかっていただけましたでしょうか?
次回からは『じんじゃーまん』などのメイキングをお話していこうと思います。
それでは、この辺でひとりごとを終わりにしたいと思います。
お目に触れた方にとって、何かが少しでも伝わっていれば、幸いです。
では皆様、またお会いしましょう。
いとそ けんじ
- 糸曽 賢志(いとそ けんじ)
- 1978年、広島生まれ。東京造形大学在学中に、アニメ制作会社でアニメーション制作に参加。
20歳で巨匠宮崎駿の弟子となり、ジブリ演出を学ぶ。
大学卒業後はゲーム会社に入社し、イラスト、グラフィックデザイン等に従事。
現在はフリーの映像作家として実写・アニメーションを中心に活動している。
2005年より早稲田大学、本庄市、日本映画監督協会の支援を受けて個人アニメーション制作に
取り組みつつ、早稲田大学内に置かれた自らの研究室で、映像を研究。
文化庁新進芸術家国内研修員にも認定され、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2008で北海道知事賞、第7回東京アニメアワード企業賞を受賞するなど、今、最も期待されている若手映画監督の一人である。
⇒加藤英美里×糸曽賢志アニメ 『コルボッコロ』完成インタビュー
⇒クリエイター糸曽賢志がもっとよくわかる!ロングインタビュー
⇒糸曽賢志オフィシャルウェブサイト(http://www.itoso.net/)