「糸曽賢志の一方通行なおしゃべり」
第三十回「締め切り」
皆さん、こんにちは。人によってはこんばんは。 糸曽 賢志(いとそ けんじ)です。
ここ最近、締め切りが続きアニメ業界における地獄スケジュールを体感しております。
そろそろ体力的にも徹夜がきつくなってきたと思っていたのですが、ここを踏ん張れば作品が良くなると思えると不思議と数日くらいなら寝なくても平気だったりするので、何だかんだいってもこういう仕事が好きなのだと思っています。
とはいえ、日本のアニメーションプロジェクトは予算的にも制作期間的にも無理があるものが多い気がします。
現在、ボクが演出を担当させていただいているカートゥーンネットワーク製作の『トランスフォーマー』に関してはアメリカ資本なので予算はある程度あるようですが、制作期間がタイトです。
アメリカから頂いた脚本が、ちょっとした劇場作品に匹敵する内容なので、密度も多く動画枚数や設定関係も日本のテレビシリーズの3倍はあるわりに、絵コンテに対してGOサインが出てからの制作期間が2ヶ月弱というスケジュールなので、締切り間際になると徹夜続きで、ほとんど家に帰れません。
何故帰れないかということを説明する前に、ここでまず商業アニメーションにおける演出が行う制作の工程を書かせていただこうと思います。
演出の役割は「絵コンテの時間尺の確認」→「作画打合せ」→「レイアウトチェック」→「BG(背景)打合せ」→「原画チェック(動きのタイミングを調整)」→「色打合せ」→「動画・彩色データをチェック」→「BG(背景)チェック」→「撮影出し(BGと動画を合わせてみて最終チェック)」という感じで、結構することが多く大変だったりします。
アメリカ資本のアニメーションの場合は台詞入れは先に行ってあるし、編集などといった作業はアメリカ側が行うことが多いので、上の作業工程が主流のようです。
一つ大変なことといえば、台詞が先に録ってあるぶん口と台詞を完全にあわせなければならないので、タイムシートに台詞と口の形を全部書いていくという気の遠くなる作業があることです。
逆に日本のアニメーションは、上の作業工程の間にアフレコやダビングなどの作業が入ってきます。
これらの作業は、事前にスタジオの予約や声優とのスケジュール調整が行われている関係で、先に日程が決まっていることもあり、制作が遅れていると悲惨な状況でのアフレコ作業が行われます。
一番ひどい状況になると、絵コンテが出来た翌日にアフレコが行われ、それに合わせて収録された声をもとにアニメを制作することになります。
また、ボクは現在『トランスフォーマー』に並行して、もう一本マッドハウスさんが制作されている、とあるTVアニメの演出もさせていただいているのですが、そちらのスケジュールもタイトで、このままいくとレイアウト未完の状態でアフレコに突入しそうです。
ただ、運良くこのTVシリーズはベテランの人気声優さんばかりなので、多少絵の情報が足りなくても、何とか声優さんの力に助けてもらえると信じつつアフレコまでに少しでも多くの絵が用意できるよう頑張っています。
と、演出作業について少し語らせてもらったところで、少し話を戻し、何故帰れないかについてお話させていただくと、原画や背景などの担当者が、締切り間際になって急に大量に上げてくるというのが大きな理由だと思います。
締切り間際にならないと焦らないという人間心理も理由の一つだとは思いますが、それ以上にギリギリに上げておけばリテイクを食らわずに済むと考えている方々が多くいるような気がします。
ボクとしても締切りを落とせないから、よほどの事でないとリテイクも出せないし、大量にまとめてチェックしているとミスも増えます。
そういうのが重なって、家に帰る時間がなくなりスタジオに篭って作業を行うことになるのです。
さてさて、ご興味をお持ちの方もいらっしゃると思いますので、ボクが学んだ「演出の作業工程」に関しては、これからこの連載でも少しづつ細かい説明をさせていただこうかなって思っております。
ちなみに、この「トランスフォーマー」ですが、締切日になっても一部の原画とBGが上がってこない影響もあり、結局3分の1は間に合いませんでした。
何とか事情を話して1週間ほど猶予をもらって制作中だったりします。
それでは、この辺でひとりごとを終わりにさせて頂きます。 お目に触れた方にとって、何かが少しでも伝わっていれば、幸いです。
それでは皆様、またお会いしましょう。
いとそ けんじ
⇒Transformers: Animated| Cartoon Network(http://www.cartoonnetwork.com/tv_shows/transformersa/)
- 糸曽 賢志(いとそ けんじ)
- 1978年、広島生まれ。東京造形大学在学中に、アニメ制作会社でアニメーション制作に参加。
20歳で巨匠宮崎駿の弟子となり、ジブリ演出を学ぶ。
大学卒業後はゲーム会社に入社し、イラスト、グラフィックデザイン等に従事。
現在はフリーの映像作家として実写・アニメーションを中心に活動している。
2005年より早稲田大学、本庄市、日本映画監督協会の支援を受けて個人アニメーション制作に
取り組みつつ、早稲田大学内に置かれた自らの研究室で、映像を研究。
文化庁新進芸術家国内研修員にも認定されており、今、最も期待されている若手映画監督の一人である。
Webサイト→糸曽賢志オフィシャルホームページ(http://www.itoso.net/)