「糸曽賢志の一方通行なおしゃべり」
第三十一回「中国でアニメをつくるということ」
皆さん、こんにちは。人によってはこんばんは。 糸曽 賢志(いとそ けんじ)です。
何だか、めっきり寒くなって布団から出るのが嫌な季節になってまいりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
ボクのほうは、アニメ制作の合間を縫って中国出張に行っておりました。
半年に一度のペースで来ていることもあって大分慣れてきましたが、異国に来ると毎回色々なことを学べるので面白いです。
今回はアミューズメントメディア総合学院の校長先生と、同校のキャラクターデザイン学科の先生と一緒に行かせて頂きました。
出発時に困ったのが、飛行機が飛ばなかったこと。
出張目的地までは北京から国内便への乗換えが必要なのですが、中国の国内線はよく遅れたり停まったりすることがあるのです。
中国の北京空港に到着後、乗り換えの手続きを終え、飛行機に無事乗れたので「今回は無事出発しそうだな」と安心していたところ、出発時刻になった頃に「飛行機に故障が見つかったので降りてください」と機内放送が流れたのです。
仕方ないので、乗客全員で飛行機を降りて搭乗口付近まで戻ったのですが、そこからが大変。数時間待たされた挙句、今日は飛ばないかもしれないので、「今日は北京に滞在してください」と、航空会社側が言い出したのです。
するとそこにいたお客様全員が怒って言い合いをはじめ、航空会社職員と大喧嘩に発展。
最終的には「劇団ひとりさん」にそっくりの航空会社リーダーが登場し、結構高めの賠償金を払うと周りを説得し、騒ぎは治まりました。
やはり世の中はお金なのかな……。
といっても、ボク達は当日中にどうしても目的地に行かなければならなかったので、お金なんか要らないからと、しつこくお願いして何とか小さめの飛行機を出してもらい目的地に無事到着。
ホテルに辿り着いた時は夜中になっていました。
そんなトラブルから始まった出張でしたが、翌日は早朝からハードスケジュール。
今回の出張は、講演と中国との色々な提携が目的についてだったので色々なところを回ったのですが、色々な人と話しているうちに面白いことに気付きました。
それは、中国の人は絵を描くときに設定やキャラクターの存在理由を考えない傾向にあるということです。どちらかというと見た目や派手さ重視で作品を作る傾向にあるように見受けられました。
実際にアニメスタジオの方々からも、あまりストーリーを考えたりする人がいないと聞きました。やはりそこが弱い部分みたいです。
最近日本のアニメは中国や韓国の助けがなければ確実に破綻する構造で制作されていますが、ボクの経験上、向こうの方々は指示をした以上のことには手を出してきません。そのかわり言われたことは確実にこなします。
そう考えると、そういう得意不得意を理解し、場面(カットやシーンごと)によってどの国のアニメーターにお願いするかを分けると良いのかもしれません。
最近は、中国韓国だけでなく、インドなども日本アニメに進出してきているようで、そういった所とも良い付き合いが出来るようになれれば一番良いと思っています。
でも、こういった特性を理解して仕事を振るという判断は、別に海外相手だけではなく、国内のスタッフとやるときにも必要なのかもしれません。
色々な人と出会って、たくさんの仕事を経験し、失敗しながらでも色んなことを学び取ることが大事なんだなあと改めて思った出張でした。
それでは、この辺でひとりごとを終わりにしたいと思います。 お目に触れた方にとって、何かが少しでも伝わっていれば、幸いです。
次回は、商業アニメにおける「演出」の仕事内容について少しづつ書かせていただこうと思っています。 では皆様、またお会いしましょう。
いとそ けんじ
- 糸曽 賢志(いとそ けんじ)
- 1978年、広島生まれ。東京造形大学在学中に、アニメ制作会社でアニメーション制作に参加。
20歳で巨匠宮崎駿の弟子となり、ジブリ演出を学ぶ。
大学卒業後はゲーム会社に入社し、イラスト、グラフィックデザイン等に従事。
現在はフリーの映像作家として実写・アニメーションを中心に活動している。
2005年より早稲田大学、本庄市、日本映画監督協会の支援を受けて個人アニメーション制作に
取り組みつつ、早稲田大学内に置かれた自らの研究室で、映像を研究。
文化庁新進芸術家国内研修員にも認定されており、今、最も期待されている若手映画監督の一人である。
⇒加藤英美里×糸曽賢志アニメ 『コルボッコロ』完成インタビュー
⇒クリエイター糸曽賢志がもっとよくわかる!ロングインタビュー
⇒糸曽賢志オフィシャルウェブサイト(http://www.itoso.net/)