デジタル作画の最前線

第三部は、『超時空要塞マクロス』などのキャラクターデザインで人気をほこり、連載中のマンガではデジタル制作に本格的に取りくんでいる美樹本晴彦さんのセッション。絵を描きはじめたきっかけからクリエイター同士のかかわり、現在のデジタル環境まで、たっぷりと語ってくださいました。

■イラストレーター・漫画家 美樹本晴彦の世界

――絵の世界に入られた経緯から伺えますか。

無敵超人ザンボット3
※6『無敵超人ザンボット3』
1977年~1978年放映のTVシリーズ。地球に移住した異星人の末裔が彼らの母星を滅ぼした謎の敵と戦うリアルロボットアニメ。
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※7河森正治
マクロス・シリーズをはじめとするSF作品の数々で知られるアニメーション監督、メカデザイナー。最近作は『劇場版マクロスF 虚空歌姫~イツワリノウタヒメ~』『あにゃまる探偵 キルミンずぅ』
河森正治オフィシャルサイト

※8細野不二彦
『Gu-Guガンモ』『ギャラリーフェイク』など、幅広い作風と緻密な取材に定評があるマンガ家。最近作は『電波の城』。

美樹本 ひとりっ子で家の中に遊び相手がいなかったので、『鉄腕アトム』などの模写をはじめました。高校生くらいになると、当時はアニメ好きが少数派だったことも手伝って、同好の士で集まって『機動戦士ガンダム』の同人誌をコミケに出したりするようになって。『無敵超人ザンボット3』※6などに引きこまれましたね。

そのグループの中に河森正治君※7や細野不二彦君※8がいて、彼らが『宇宙戦艦ヤマト』のデザインワークをしていたスタジオぬえにファンとして出入りするうちに仕事を手伝うようになったんです。その流れで、『超時空要塞マクロス』のキャラクターデザインのお話をいただきました。

――大抜擢ですね。当時はよくあったのでしょうか。

美樹本 むしろ今よりやりにくかったと思います。ぬえさんに新鮮なスタッフと演出でやりたいという意欲があったおかげですね。力不足なのにベテランの方々をたばねる立場になって大変でしたが、ディレクターだったアートランド社長の石黒昇さんがいろいろ気を使ってくださいました。

――『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』や『機動戦士ガンダム エコール・デュ・シエル』などガンダム関連のお仕事も多いですが、マクロスとは違う苦労がありましたか。

美樹本 ガンダムが好きでアニメ業界に入っただけに、責任の重さを感じて最初はこわかったです。

『0080』は、富野由悠季監督とはまったく違うガンダムをというお話で引きうけたのですが、自分がくわしくなかった軍服などはむずかしかったですね。『エコール』は既存のガンダムの世界観の中でオリジナルをやるというプレッシャーがありました。

――『マクロスエース』で『超時空要塞マクロス THE FIRST』のマンガ連載をはじめられたきっかけはなんでしょうか。

デジタル作画の最前線

美樹本 「ガンダムがうまくいったからマクロスもやらない?」というのがそもそもだったんです(笑)。

最初はいろいろ事情があってお断りしたのですが、最新の『マクロスF』の人気が出たことを機に、シリーズ全体にいろいろな人が入ってくる仕かけをしたいと思ってはじめました。デジタルに挑戦するよい機会だというのもありましたね。

――これからの展開はどうなるのでしょう。

美樹本 読者の反応を見ながら、徐々にマンガ版オリジナルの度合いを高めていこうと考えています。マクロスは物語とは関係ない部分でキャッチーな絵が多いので、それをどこまでどう再現するかは悩ましいですね。TV版第4話の宇宙でマグロに出会う場面だったら、スタッフに「先生、マグロは必要ですよ!」と言われて描いたけれど、そのあとは描かなかったとか。完結まで5年くらいかけてやる予定です。

――デジタルを導入されて変わったことはなんですか。

美樹本 選択肢が増えたので、時間はかかるようになりました。トーンの貼りかえとか背景の差しかえとか、アナログだとできなかった指示が自由に出せて気軽に応じてもらえますから。その分、単行本だと濃すぎるくらいにクオリティは上がったと思います。

ラフを描きこんだネームさえあれば、キャラクターがなくても、アシスタントさんがどんどん描けることにはおどろきましたね。コックピットだったら、パイロットの主線だけ入れれば完成みたいな感じになります。ただ、ネーム段階でラフを描くと、主線までのあいだにテンションが落ちてしまうのは課題ですね。

――イラストはマンガより前からデジタルだそうですね。

美樹本 かみさんが絵の仕事をやっていて、まず彼女が導入したんですよ。MacG3を買ったのをきっかけに、もったいないからぼくも使うようになりました。

今はMacG4にOS9.2で、ソフトはPhotoshop4.0とPainter7を使っています。レイヤーを分けると重くて保存中に寝てしまうこともありますが、そんなに不自由は感じないです。

――工程はすべてデジタルですか。

デジタル作画の最前線

美樹本 主線までは紙に鉛筆で、Painterで彩色、Photoshopで仕上げをします。修正や色の調整が簡単なのが、デジタルの便利さですね。背景や大道具は、自分で撮影した写真を取りこんで下描きにすることもあります。

――写真は趣味として撮っていらっしゃるのですか。

美樹本 資料としてずっと撮ってはいたのですが、ここ数年は趣味でもありますね。

絵を描くならば、カメラを使うことはおすすめですね。アニメではこだわる演出さんが多いし、マンガなどでも根拠のある絵が描けるようになるので。たとえば、奥から手前になぐる絵で手を大きく描くのは、なんとなくのデフォルメではなくて、広角レンズだとそう見えるからなんです。

ぼくの絵は標準から望遠に近いです。異性を見るのに、ある程度距離をたもって全身を見ていられる距離ですよね。

――美少女をデザインするポイントや画力向上のこつはありますか。

美樹本 美少女は、漠然と自分の中にある合格ラインに近づけるという感じでしょうか。画力一般としては、デッサンの勉強をおすすめします。人生はお金がすべてじゃないけどあった方が便利というのと同じで、デッサン力はないよりあった方が有利だと思います。

――どうもありがとうございました。

(2010年3月27日、Wacom Live 2010 デジタルイラストフェスタ 2010会場・TEPIAにて収録)
取材・構成:矢野ちえみ

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