アニメのゆくえ201X→

アニメの現在と未来について作品制作のキーパーソンに聞く連続ロングインタビュー企画「アニメのゆくえ」。これまで、オリジナルアニメの隆盛や3DCGの挑戦など、さまざまな変化を取り上げてきました。今回は〝アニメ音楽〟の変化にスポットを当てていきます。

CDの売り上げ不振を受け変革期を迎えた音楽業界が試行錯誤を重ねている現在、アニメソングは既存の音楽ジャンルの垣根を越えた、今までにない魅力を備えた音楽のカテゴリーとして注目を集めています。とはいえ、その実態がまだまだ知られていないのもまた事実。アニメソングの面白さ、魅力はどんなところにあるのか? また、現在のアニメソングシーンはどのような盛り上がりを見せているのか? アニメソング専門の音楽誌『リスアニ!』に創刊から携わり、NHKラジオ第一「渋谷アニメランド」のパーソナリティや、「荒川強啓デイキャッチ」のコメンテイターなど、様々な形でアニメソングについての言論活動を行われている、音楽評論家の冨田明宏さんに、アニメソングの〝今〟についてお聞きしました。シーンを代表する語り手として、また、現役のアニメソングファン代表として、アニソンへの熱い思いを語っていただいています!

⇒特集第1回 アニメ評論家藤津亮太氏インタビュー
⇒特集第2回 サンジゲン松浦裕暁代表インタビュー
⇒特集第3回 ニトロプラスでじたろう氏インタビュー
⇒特集第4回 ウルトラスーパーピクチャーズ 松浦裕暁代表インタビュー

■アニメ音楽を語る、ということ

――まずは冨田さんご自身がアニメソングを語る場を作ろうとされたきっかけから聞かせてください。

この仕事を始める前は、タワーレコードで洋楽のロックをメインにバイヤーをやっていたんです。タワレコは「とにかく流行っているものは何でも聴きなさい」という社風だったこともあって、色んなジャンルの音楽を聴いていて、その中にアニメソングもあったんですね。元々アニメそのものも大好きだったので、アニソンって面白いなと当時から思ってはいたんですが、まだ表だって標榜するほどにはシーンが温まっていなかった。

――時期的にはいつ頃ですか?

2005年頃ですね。当時は、フジロックにも行くけどコミケにも行く、という忙しい夏を過ごしていました(笑)。

――野外フェスで日焼けした姿でコミケに……という感じだったわけですね(笑)。当時のアニソンシーンの雰囲気は?

過去の作品を聴き返して「これ懐かしいよね、あれが良かったよね」という話をするぐらいでしたね。ちゃんと文章として語らないといけない局面に来たと思ったのは『涼宮ハルヒの憂鬱』がヒットして、主題歌がヒットチャート上位に入ってきたタイミングでした。『ハルヒ』の主題歌は自然にチャートに入ったという感覚があって、アニメソングを語るための熱量を既にシーンが帯びていると感じたんですね。

――「自然にチャートに入った」というのは、どういうことですか?

それまでにもアニメソングがチャートインすることはありましたけど、あくまでもメジャーへのカウンターアクションという部分での話題性で、「俺たちの好きな曲をオリコン1位にしてみんなでメジャーな音楽のファンを笑ってやろうぜ」というようなノリが強かったと思うんです。代表的なところでは、『魔法先生ネギま!』の主題歌だった「ハッピー☆マテリアル」をチャートの1位にしようというネットの動きなんかがそうですね。

――ありましたね! シングルを複数枚購入するよう、ネットで呼びかけて……。カウンターではない「熱さ」がシーンに生じる背景には何があったのでしょう?

バックボーンとしてあるのが2005年からスタートした「アニメロサマーライブ」という音楽フェスですね。あのイベントができるようになったという状況がすごく重要だと思っています。それまでアニメソングのイベントといえば、「スーパーロボットもの」みたいにジャンルで区切って、昔の曲を懐かしみながらみんなで合唱するとか、特定のアニメ作品とがっつり組んだファンイベントというかたちでしかあり得なかったんです。メーカーや事務所の垣根を越えて、アニメソングのフェスとしてイベントを開催するなんて絶対に無理だと思われてもいました。でも、そういったある種タブー視されていたことをぶった切って、新しい世代のアニメソングのクリエイターやシンガーたちが一同に会したイベントをやったら、すごくたくさんの人が喜んだんです。

――「アニサマ」の成功が、アニメソングを語る場を作ろうというきっかけに繋がったと?

そうですね。アニメソングやアーティストに信奉に近い感情を抱くユーザーが1万人くらいいた、アニメソングというものを自分たちが所属している・帰属できる音楽として捉えている人がこれだけいるんだ、「アニメソング」という音楽シーンは既にできあがっているんだ……ということを「アニサマ」が客観的な形にして見せてくれたんです。そうやってちゃんとユーザーがいることがわかった上で『ハルヒ』のような旗振り役になる作品が出てきたということで、ちゃんと評論して、文字化しなければいけないな、という思いが生まれたんですね。

――今となっては不思議に思う読者も多いかも知れませんが、それまではどこか音楽ファンはアニメソングを〝隠れて聴く〟ようなところがあったと記憶しています。少なくとも、ちゃんと音楽として雑誌などで評価されることはなかったですよね。

音楽雑誌だとアニメソングというだけで切り捨てられていましたし、アニメ雑誌でも、1ページ1000文字程度のインタビューしか載らない、そもそもディスクレビューのページすらない、というのがほとんどでしたね。だから僕は、ちゃんとアニメソングを語ることができて、みんなに「そうそう!」とうなずいてもらえるような場所が欲しくなって、動き始めたんです。「どうしてもこのタイミングでやらなきゃいけない!」と思ったから、タワーレコードでの仕事の傍らアニメソングについての記事の企画書を書いて、色んな出版社に送りました。そこで反応してくれた雑誌が、「オトナアニメ」だったんです。最初に「オトナアニメ」vol.3で「今聴くべきアニメソング50枚」というレビュー企画をやらせていただいた。昔懐かしいアニメソングももちろんいいけど、そうじゃないんだよ、今はこれが僕たちの主題歌なんだよ……と、僕が肌で感じたことを文字でも楽しんでもらえればと思ったところから始まったんです。そこから発展して、「アニソンマガジン」という雑誌も創刊させたのですが、そのスタッフは現在「リスアニ!」に引き継がれています。

――「オトナアニメ」の特集は、アニメソングを音楽的な視点からレビューしていて、新鮮でした。

そこはかなり意識していましたね。CD1枚につき250文字程度の短いレビューでしたけど、ちゃんと音楽のわかる語り手を選んで書いてもらった。でも「嬉しかった」という意見も読者の方からいただけた反面、やはりそういった書き方、伝え方には拒否反応もあったんですよ。

――「拒否反応」ですか?

「やっぱりアニメソングは、アニメとセットで聴くものではないのか?」というような反応ですね。今では聞き手の意識も変わってきてはいるのですが、音楽的な基準だけでアニメソングを評価することで、アニメソングがアニメ文化から少し切り離されてしまうところも、やはりあるとは思います。アニメ文化から切り離されたアニメソングというのが、在り方として正しいのかどうかは、今でも常に葛藤しながらやっているところでもありますね。だから「リスアニ!」は表紙に必ず描き下ろしの版権絵を使うようにしているんです。ただの「音楽誌」ではなく、「アニメ誌としての側面もある音楽誌」なんですね。

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