アニメのゆくえ2011→

2000年以降、ゼロ年代を通じて制作環境のデジタル化や、パッケージのビジネス形態などアニメをとりまく環境は大きく変化してきました。そして2011年、この10年の成果を踏まえてこれからのアニメはどのように変わっていくのか? 制作現場から企画・流通など様々な形で「アニメ」に関わるキーマンへの取材を通じて、次のアニメの10年を探る連続企画「アニメのゆくえ2011→」。

まずは、2004年から2010年にかけてアニメ誌で連載された原稿を中心にゼロ年代のアニメを扱った時評を『チャンネルはいつもアニメ』(NTT出版)として書籍化されたアニメ評論家の藤津亮太さんに、これまでの10年と現状について伺うことで、次の10年の見取り図を描いていきます!

第2回 サンジゲン松浦裕暁代表インタビュー「二次元からサンジゲンへ―3DCGで描くアニメのNEXT」
第3回 ニトロプラス代表でじたろう氏インタビュー「混沌のアニメ業界に輝くクリエイター集団の輪郭(エッジ)~これまでとこれから ニトロプラスの10年」
第4回 ウルトラスーパーピクチャーズ 松浦裕暁代表インタビュー「BLACK★ROCK SHOOTER 今から始まるウルトラースーパーピクチャーズの物語」

00年代にはアニメの本数が増加した

――今日はご著作の『チャンネルはいつもアニメ』を踏まえつつ、00年代にアニメを取り巻く状況にどのような変化があったのか? 2010年代にはどう変化していきそうなのか? そんなお話を伺えればと考えています。よろしくお願い致します。

藤津:よろしくお願いします。聞き手になることは多いのですが、インタビューされることには慣れていないので、なんだか緊張しますね(笑)。

――(笑)。

藤津:まず、『チャンネルはいつもアニメ』のもとになった時評連載(注:『月刊Newtype』連載の「アニメの門」、『月刊アニメージュ』連載の「アニメの鍵」)を始めたときのことから話していくと、今日のテーマに入って行きやすいのかなと思います。この連載は、もともとはもう少し気楽な内容の連載になるはずだったんですね。仕事について「気楽」なんていうのも変なんですけど(笑)。

――といいますと?

藤津:連載をしていたのはアニメ誌なわけですけど、ということは、面白くて人気がある作品はもう時評以外のページでとりあげてあるわけですよ。だから時評では、ただ「こんな面白い作品がある」というのではなくて、「この作品はこう見たら面白いのでは?」というアングルを示すような文章にしよう、と考えていたんです。

――なるほど、オーソドックスな視点はもう通常の誌面で示されているから、軽くひねった視点を示す時評を連載しようとしてらしたんですね。ところが、実際は、連載中にアニメをとりまく状況が変わっていったことで、内容に変化が生じた、と。

藤津:そうです。連載中のゼロ年代中盤頃から、テレビで放送されるアニメの本数が増えたんですが、それはつまり、「深夜枠で放送されるアニメが増えた」ということだったんですね。で、さらに一歩進んで、キー局の深夜枠すら埋まりはじめて、放送局がU局になることも珍しくなくなってきた。そうなったときに、テレビアニメの企画が昔よりもとんがっていったんです。

――たしかに、その頃からマニアックな内容の作品が増えましたよね。

藤津:それで、アニメファンのあいだで話題になるのも、そうした深夜枠のとんがった作品が多くなっていった。そのときに、「なぜ昔のアニメは今ほどとんがっていなかったのに、あんなにアニメファンから愛されていたんだろう?」ということが気になって、その気持ちが連載に反映されていったんです。

――その疑問の結論はなんだったのでしょう?

藤津:直接的な答えではないのですが、連載していく中で思いついた結論は、「作品の内容が変化した」のではなくて、「テレビ番組全体における、アニメ番組の占める位置が変化した」というものでした。プライムタイムではもはや視聴率が期待できない。でも、深夜枠でDVDセールスベースにすれば、アニメを制作することができる。こういう外的な環境が内容を決定しているというふうにまず認識するところから始めないといけないなと思ったんです。言ってしまえば「深夜アニメがマニアックだから普通の人が見ないんだ、と言っても始まらないんだ」と。だって、考えて見れば深夜番組なんですからね(笑)。

――ああ、なるほど。深夜ってそもそもゴールデンでは扱えない実験的だったりコアな需要があったりする企画を放送する時間帯ですものね。

藤津:そこに思い至ってから、「テレビ番組全体の中のアニメの位置」だとか、「映画興業におけるアニメの位置」みたいなことを、時評とほぼセットで考えていくようになったんです。その部分は、『チャンネルはいつもアニメ』に収録された文章にも反映されていますが、より詳細には「アニメ!アニメ!」での連載「藤津亮太のテレビとアニメの時代」に繋がっていきました。

劇場アニメが隆盛する背景/求められる「クオリティ」

藤津:そうした経緯を踏まえていうと、2010年のアニメを取り巻く状況をお話するにあたっては、映画館での話をしていくのが分かりやすいように思うんですね。アニメって、ファンは確実にいるけど、単館上映だと箱が小さすぎて、かといって全国ロードショー公開をすると逆に箱が大きすぎるケースが多かったんです。ざっくり言うと、21世紀に入ってシネコンが増え、「単館+α」とか、あるいは、「ミニチェーン」と言われる100館以下の興業の体勢が組めるようになったことで、その状況に変化が生まれた。

――適切な規模での上映ができるようになったんですね。

藤津:そうです。それまでは、作品を作って上映している興行側は、最終的に作品の名前が売れて、DVDなり関連商品なりが売れてリクープできればいいけど、映画館にとって上映する意味が無いというか、むしろやると損をした感じがある状況だった。それが映画館も得をして、興行側にも得があるという体制が、21世紀になって組めるようになってきた。結果として、逆に今度はとりまわしのいいアニメ映画の企画が通りやすくなったんですよ。

――その状況を象徴するタイトルはあるのでしょうか?

藤津:どこを起点にするかは難しいところですが、一つは劇場版『機動戦士Zガンダム』。“新訳”三部作のヒットはエポックメイキングな出来事だったと思いますね。名の売れたタイトルとはいえ、もともと20年前に作られたテレビシリーズのリメイク作品。公開規模も最終的には100館強になりましたけど、スタートは80館強と少なめ。なのに、どの劇場も大入り満員状態でヒットした。もう一つは『空の境界』七部作で、『人狼』『時をかける少女』とヒットを出して、“単館系アニメ映画”を切り開いてきたテアトル新宿をベースに上映されて、ご存じの通り大ヒットした。『ブレイクブレイド』や『機動戦士ガンダムUC』、『トワノクオン』などの、イベント上映等のスタイルで劇場公開し、パッケージを販売するというスタイルは、明らかにポスト『空の境界』ですよね。ただ当然ながらこういう企画も増えていけば、興行的な当たりはずれもでてくるわけで、これが定着するのか、一時の流行に終わるかは、ここ2年内ぐらいで見えてくるのではないかなと。

――映画もけして先行きが明るいわけではないんですね。

藤津:まあ、そうなんですけど、映画には映画のアドバンテージがあって、それは「お客に買ってもそんはない、と思わせるクオリティーを出しやすい」ということなんです。ぶっちゃけて言ってしまうと、ソフトをパッケージ化して制作費をリクープするようになった時点で、アニメって本質的に全部「OVA」になっちゃったんですよ。あとはその「OVA」を宣伝するために、どのチャネルに乗せるかというだけの違いで。それがTVの深夜枠なのか、映画館なのか、という違いだけ。ただ本質は「OVA」なんだけど、チャネルによってスケジュールと予算は変動するわけです。パッケージが売れなくなっている中、TVの制約の中でクオリティ維持に苦労しながら戦うよりは、「ここまでやっておけば大丈夫」というクオリティで勝負ができる映画のほうが戦いやすくなっているんですよ。しかも興行の段階から「お金を払って見てもらうため」に宣伝をしているわけで、パッケージを売るということと目的は同じですよね。そういうミッションのシンプルさも、映画ベースのやりやすさ、ではあると思ってます。

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