『電脳コイル THE COMICS』久世みずきインタビュー

『電脳コイル THE COMICS』久世みずきインタビュー ちゃお付録版『電脳コイル THE COMICS』

子供たちの噂によれば、『電脳コイル』にはアニメとは違うカタチがあるそうです。

2007年5月にNHK教育テレビで放送がスタートすると同時に、その緻密なストーリーとハイクオリティな映像で話題を呼んだアニメ『電脳コイル』。少女マンガ誌『ちゃお』(小学館)の別冊付録コミック『電脳コイル THE COMICS』でそのコミカライズを手がけたのが、デビュー5年目のマンガ家、久世みずきさん。

現在、人気アニメやゲーム、ライトノベルをマンガ作品として再構築するコミカライズは、メディアミックスにおいて欠かせないものになっていますが、その制作現場ではどのような取り組みが行われているのか? アミューズメントメディア総合学院マンガ学科で、久世さんの指導にもあたったマンガ評論家の伊藤剛氏を聞き手に、久世みずき版『電脳コイル』の世界に迫ります。

■久世みずきのマンガ道

――はじめに、マンガ家・久世みずきさんについてお伺いします。マンガを描き始めたのは、いつごろからですか?

子供のころから描いてました。姉の友人が凄く絵が上手で、姉と私と三人でよく絵を描いて遊んだんです。それで絵が好きになって、お互いに描いたマンガを売りあったりしてました。

――そこからマンガ道が始まったんですね。学校でマンガ研究会のようなものに入ったりは?

マン研はなかったので、中学校のときは美術部に入りました。

――高校は、デザイン系や美術系ではなく、普通の高校に進学されたんですか?

はい。私、高校では登山部だったんですよ。お世話になった先生が顧問をやっていて、潰れそうだから入ってくれと頼まれて(笑)。登山部では4キロ走ったりとか、20キロの荷物をかついで神社の階段を一段抜かして上り下りするとか、体力づくりをやらされたんですね。そのおかげでマンガを描くために必要な忍耐力がついたと思います。私、漫画と登山って似てるな、って思ってて。ペース配分の仕方であるとか、登りきった後の爽快感とか。すごく似ている。で、高校を卒業してから専門学校に入りました。

――確かに、マンガ家は体力勝負ですよね。当時好きだったマンガ、影響を受けたマンガはありますか?

『美少女戦士セーラームーン』が好きで、ひとりセーラームーンごっことかしてました(笑)。あとは『怪盗セイントテール』。いつか怪盗マンガが描きたいです。

――最近、気になる作品は?

PEACH-PITさんの作品が好きです。『しゅごキャラ!』や『ローゼンメイデン』とか。あとは、『なかよし』で描かれている遠山えまさんの作品がすごく好きです。

■『電脳コイル』コミカライズの舞台裏

――『電脳コイル』のコミカライズはどのように動き出したのでしょう?

ウンチ!『電脳コイル THE COMICS』より

ずいぶん前になりますけど、最初にお話を頂いた時はまだ放送前なので『電脳コイル』については知らなかったんです……。それで担当さんと一緒に徳間書店に行って、アニメ本編を見せていただいたのが始まりです。13話まで見てからネームを切り始めました。

――13話まで見て、後は好きにやってください、という感じだったんですか?

そうですね。あとは資料集と、 磯(光雄)監督がまとめられた企画書を見せていただきました。それで、『電脳コイル』の世界、作品を好きだと感じてくださるなら、あとは久世さんの好きだと思う『電脳コイル』をのびのびと描いてください、というお話でした。それで、最初に『電脳コイル』を観させていただいたとき感じた、「すごく面白い!」という素直な気持ちをそのまま描くように心がけました。

――ネームのやり取りはどのような形で?

『ちゃお』編集部の担当さんと私との間でネームの方向性が固まったら、担当さんから徳間書店の窓口の方に送る、という形式でした。でも、徳間書店さんからほとんど注文はなくて、本当に自由に書かせていただけて、感謝しています。

――久世版『電脳コイル』を読むと、基本的にはオリジナルストーリーなのですが、たとえば単行本に収録されている書下ろし分で、ヤサコの妹の京子がクラスの皆で作ったカレーライスに「うんち!」と叫ぼうとするするシーンは、アニメだと第1話にお母さんとの間で行われるやりとりです。同じように、アニメに出てくるセリフやエピソードが、いくつかアニメとは違う形で出てきますよね。

アニメの『電脳コイル』とまったくつながりがないよりも、読んでくれた人に『電脳コイル』っぽさを感じてもらえたほうが面白いかなと思って、できるだけアニメと同じシーンをいっぱい入れるように気をつけました。

――具体的に、担当さんからアドバイスがあった部分などはありますか?

絵柄とかは、私の絵でっていうことだったので、「イサコとヤサコの絡みが少ないからもうちょっと増やしたら」というような、ネームのバランスの細かい調整をしていただいたくらいでした。

■「ちゃお」読者にむけた『電脳コイル』に

『電脳コイル THE COMICS』より

――アニメ『電脳コイル』はNHK教育テレビでの放送でしたが、物語や設定には、とても複雑な部分もあるお話だと思います。そういった部分をマンガの中で表現する上での苦労はありませんでしたか?

そこは悩んだところなのですが、設定については担当さんとも話し合って、大きく削らせていただきました。たとえば、電脳メガネひとつとっても「メガネ型のパソコン」というくらいのイメージで考えるようにして。とにかく、マンガ版ではシンプルに謎の存在の「ミチコさん」を、仲間たちで探すお話にしよう、と。

――そのほかで「ちゃお」の読者にあわせるために工夫された部分はありますか?

『電脳コイル』の世界は「電脳の戦い」なので、アニメでは登場人物が傷を負っても血が出ないんですね。そこがちょっと読者の年齢的にわかりづらいと思ったので、目で見て解るように、血を出すような表現に変えてみました。そこは、マンガだからいいかな、と思って(笑)。

――久世さん自身は、これまでに『電脳コイル』のようにSF的な部分のある作品を、好きで読んでいたりしたことはありましたか?

特にSFを意識したことはないんですが、竹宮惠子先生の『地球へ…』であるとか、萩尾望都先生の『11人いる!』は好きでした。「花の24年組」の皆さんの作品は面白いですね。外国の人が主役だったり、宇宙が舞台だったりしてお話が壮大ですし、設定も素敵だし。姉が読んでいた影響もあるんですけど、すごく好きです。

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©2007 久世みずき/小学館
©磯光雄/徳間書店・電脳コイル製作委員会






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