映像に空気感を――デジタル時代の「撮影監督」とは?

映像に空気感を――デジタル時代の「撮影監督」とは?『かんなぎ』撮影監督・廣岡岳さんインタビュー

さまざまな素材を組み合わせ、モニターに映し出される最終的な画を作り出す仕事――「撮影」。 アニメーション制作にデジタル技術を用いることが一般的になった結果、その作業工程は、無限の選択肢を手に入れ、激変しました。

一部作品を除いて未だ注目されることの少ないその役職の姿を、『蟲師』『地球へ…』に関わり、武梨えり原作/山本寛監督の話題作『かんなぎ』にも参加されている気鋭の若手撮影監督・廣岡岳さんに語っていただきました。アニメを深く観るため、また、これからのアニメ作りを考えるために知っておきたい内容盛りだくさんでお送りします。

■黎明期のデジタル撮影

――廣岡さんはアミューズメントメディア総合学院に在学中から撮影の勉強をされていたんですか?

AMG

当時のCG映像学科でLightwave3D(プロからアマチュアまで広く使われる3DCG作成ツール)やAfterEffects(Adobe社の映像編集ツールで合成や特殊効果などで強力な機能をもちアニメの撮影でも標準的に使われている)といったソフトの基礎を勉強したのですが、それを使って授業とも共同制作とも関係ない作品作りに一生懸命でした(笑)。その中でコンポジットの作業を全部自分でやってみたり、コンテや演出的なものもやってみたりしましたね。

――CG技術を学ぼうと思われたきっかけはなんだったのでしょう?

CGというよりは、映像そのものに興味があったので、映像を作る媒体として3DCGに手を出したという感じです。当時はプロの映像制作に使えるハイスペックなハードやソフトが今よりも高額な時代でしたから、専門学校に入学することで作業の環境が整うというのは大きかったですね。教室にある全部のPCを1日占領してしまって、CGのレンダリングに回すなんてことは学校でないと出来ない規模のことでしたし(笑)。

――すごいですね(笑)。そのほか、学校時代の思い出はありますか?

講師の先生とよく話していました。ほとんど先生としゃべるためだけに学校に来たような日もあったくらい(笑)。先生といっても、アニメ業界で現役で仕事をされているクリエイターですから、そうした皆さんから現場のお話や作品についての話を聞いて、卒業が近づいたら就職先を相談したりもしていました。

山崎理(ヤマサキオサム)
アニメ監督/アミューズメントメディア総合学院アニメーション学科講師。代表作は『戦国奇譚 妖刀伝』『ギャラリーフェイク』『地球へ…』『イタズラなKiss』など。

――では、今所属されている南町奉行所に就職されたのはヤマサキオサム先生からのご紹介で?

いえ、在学中にインターンシップで奉行所のCG部門の仕事をお手伝いしていたので繋がりはあったのですが、就職活動を本格的に始めたときに、3DCGよりアニメーションをやりたいと思ったんです。それで、自分の技術が活かせる「撮影」の仕事を求めて、積極的にデジタルを取り入れていたAICに入社したんです。

――当時、AICは『魔法遊戯』のような3Dでアニメキャラを動かす実験的な作品含め、デジタル制作の可能性を模索することに熱心でしたね。募集としては「デジタル撮影」として?

そうです。現場的には、デジタルを導入し始めて、やっと技術として落ち着いてきたぐらいの感じでした。その後、もう少し違った傾向の作品に関わりたくなってフリーになったのですが、そこで奉行所から仕事をもらうようになって、当時の社長のヤマサキが『ギャラリーフェイク』で監督をやるときに、いろいろ手伝うことになったんですね。

――「いろいろ」というと?

撮影はもちろん、演出助手もやりましたし、シリーズ後半ではCG監督までやっていますね。奉行所にはその当時、撮影部はなかったんですけれども、たまたま撮影の技術をもっている自分がいるし、『ギャラリーフェイク』で撮影までやったときの感じが悪くなかったので、このまま体制を維持しようということで撮影部が作られたんです。そこからは、奉行所のスタッフとして撮影をやっています。

――演出助手やCG監督といった撮影以外のパートを経験されたことは、現在の仕事にも活かされていますか?

もちろんです。撮影って、結構あいまいな指示から演出の意図を理解する必要があるんです。”撮影”というとどうしても一個のカットだけを見てしまうことが多いんですが、カットのつなぎや全体の雰囲気を考えないと演出の意図は理解できません。ですから、少しでも経験することで演出に対する自分なりの考え方を持てたことは大きいと思いますね。

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