コミックマーケット77で異例のA3フルカラーイラスト集『京都、春。』を発表して話題を呼んだ同人サークル「ルビコンハーツ」。秋葉原と御茶ノ水の間、神田川沿いに、サークル自ら運営するショップで同人誌を頒布するという異例のスタイルでも注目を集めています。
その第2弾として発表されたイラスト集『猫と少女』について、サークル代表の加野瀬未友さんと、制作に参加したイラストレーター竹さん、デザイナー染谷洋平さんに伺うロングインタビューを通じて前代未聞の同人サークルの裏側に迫ります。同人誌の歴史がまた1ページ!
――まずはじめにルビコンハーツというサークルについてお伺いできますか。
加 ルビコンハーツは、僕と伊達平良の二人で始めたサークルです。そもそもは秋葉原と御茶ノ水の間にあるショップの物件を見つけて、ここで同人誌を売ったら面白いんじゃないかという話から始まりました。
第一弾の同人誌『京都、春。』では武内崇さんと小林尽さんに描いて頂いたので、有名な作家さんにお願いして本を作る方針だと思われがちですが、これから活躍するような人達の表現の場になってほしいと考えています。第二弾の『猫と少女』はそのコンセプトがはっきりしている本だと思います。
――『猫と少女』というテーマを選ばれたのは?
加 ルビコンハーツでは、実在の「何か」とイラストという組み合わせをテーマにオリジナルの同人誌を作ろうと考えているんです。猫好きな人は多いし、猫の写真集も人気があるので、猫と女の子を組み合わせたイラスト集はどうだろうと。僕は犬を飼っているので、犬と猫、どちらかといえば、犬が好きなので『犬と少女』という案もあったんですけれど、書店でも猫写真集のほうが圧倒的に数が多いので却下になりました(笑)。
ただ『猫と少女』というテーマだけでは弱かったんですが、キャラクターの少女時代と高校時代とを描いたら面白いんじゃないかという案が竹さんからでて、それで「時間」というテーマが加わって、一本筋が通る感じになりましたね。
――それぞれの同人誌の制作は、編集サイドでのコンセプト、企画がスタート地点になるんですか?
加 『京都、春。』は小林尽さんの発案だったので、絵描き主導です。武内さんと小林さんが知り合いなので、その意味ではすごく同人誌的ですね。『猫と少女』は編集主導で、こういうコンセプトでお願いしますという形でイラストレーターに依頼しています。
――企画としては『京都、春。』も『猫と少女』もただ絵を集めたイラスト集とは違うものですよね。
加 ただ上手い絵が並んでいるだけのカタログ的なものでは面白みがないので、なんらかのテーマを持ちつつ、描き手の自由な発想を楽しめるようにしたいんです。編集者として、本というのは一つの流れを作るものだと思っているので、イラスト集でもそれができるんじゃないかと考えて、そのコンセプトの中で描いてもらっています。
――イラスト集にストーリー的な要素を入れるという形は最初の段階から考えられていたんですか?
加 そこは何段階かあって、『京都、春。』も最初は京都の名所に女の子がいて、名所の解説が書いてあるような「京都観光案内」を考えていたんです。『猫と少女』も同じようにいろいろな猫を紹介する猫図鑑的なイメージだったんですが、『京都、春。』を作っているうちにストーリーが膨らんできて、最終的にあのような形になったのを見て、猫図鑑のままでは弱いと感じたのでコンセプトを詰め直しました。キャラクターの年齢を2つ描くようにしたことで、この間にどんなことがあったんだろうと読み手が想像を膨らませる余地が生まれた感じですね。
――ストーリー的な構成は『京都、春。』を制作した副産物的に生まれたんですね。『猫と少女』の企画そのものはいつごろから始まったんですか?
加 2009年の9月ごろです。冬コミで出そうという話もあったんですが、スケジュール的に厳しいので2010年5月のコミティアに合わせました。
――『猫と少女』はストーリー的には一人のキャラクターを皆さんで描いているんですか?加 それぞれ別のキャラクターを描いているんですけれど、みんなボブカットの女の子で一人に見ようと思えば見えるんですよね(笑)。意識していなかったんですが、結果的にそうなっているかもしれない。
竹 たぶん猫を好きな少女のイメージが、ボブカットだったんだと思います。
――今回は全部で4人のイラストレーターが参加していますが、作家選びの基準は何ですか?
加 柔らかい雰囲気の絵を描ける人にお願いしたいと思っていて、この人はいいなと思う人にコンタクトをとっていきました。結果的に懐かしい感じのする誌面になったかなと思います。 竹さんはすごく猫が好きだと聞いたので、ぜひ参加してくださいとお願いしました。
竹 飛びつきました(笑)。
加 常川庭助さんはpixivで絵を拝見して。二次創作が多かったんですが、すごく寂しそうな雰囲気のある絵を描いていて、オリジナルを描いても魅力的だろうと思いました。雨さんは色々な画風があって、どれも上手いんですが、これだけ器用な人ならどういうものを見せてくれるか楽しみだなと。優さんは商業誌でも活躍されているんですが、モノクロが多く、ぜひ大判のカラ―イラストを印刷媒体で見たいと思ったので。
共通するのは3人ともまだ商業誌での活動が多くないので、大きく印刷された絵を見たい人だということですね。その意味では、上手くても大判に映えないタイプの人にはお願いしにくいです。ルビコンハーツのコンセプトとして、モニターの中だけでなく印刷媒体で見ることの面白さを提示したいので、そこが作家選びの基準になっています。