電子の歌姫『初音ミク』――キャラクターと歌声が出会った日

電子の歌姫『初音ミク』――キャラクターと歌声が出会った日

DTM(Desk Top Music)。それは、一台のコンピューターがあればバンドやフルオーケストラに匹敵する音楽を奏でることができる、電子の楽器。作曲を支援するDTMソフトが唯一、創り出すことができなかったのが“歌声”でした。しかし近年、「DTMで自在に歌うボーカル」という多くのDTMファンにとっての“夢”が、技術の向上により現実的なものとなりつつあります。

その進化の過程で生まれた一人の“歌姫”――その名は『初音ミク』。高性能なボーカルエンジンに、キュートなキャラクターイラストをまとわせたそのソフトウェアは、DTMの革命であると同時に、キャラクター表現の世界にも新しい展開をもたらす可能性に満ちています。その奇跡の歌姫の誕生秘話を、キャラクターデザイナー/イラストレーターのKEIさんと、開発・発売元であるクリプトン・フューチャー・メディアCPS推進室の熊谷友介さんに語っていただきました。ぷらちなも“みっくみく”にされています!?

■ハジメテノコト

――DTMソフトとしての『初音ミク』の機能については他のメディアで沢山語られていますので、ここではキャラクター『初音ミク』を含むプロダクトデザインのコンセプトと可能性に注目したいと思います。まずは、『初音ミク』の話に入る前に、キャラクターデザイナーであるKEIさんのお話から伺わせてください。2005年にエンターブレイン「えんため大賞」で佳作に入選されていますが、イラストレーターとしてのプロデビューは?

KEI その前に電撃文庫さんから声をかけてもらったのがデビューになりますね。

――電撃文庫から声がかかったのは、Webサイト経由ですか?

KEI コミックマーケットです。2004年夏に初めてサークル参加したんですが、その時たまたま同人誌を買ってくれた電撃の編集さんから、後日メールをいただいたという経緯です。

――イラストそのものは、コミケに参加する以前から描かれていたんですよね?

KEI そうです、今やってるホームページ『KEI画廊』が、明日(2007年11月10日)でちょうど10年目になるんですよ。

――それはすばらしいタイミングですね(笑)。お仕事ではライトノベルの挿絵を描かれたり、「マジキュー」や「E☆2」といった雑誌にイラストを掲載されていますけれど、今回の『VOCALOID』のキャラクターデザインはずいぶん特殊なお仕事のケースだと思うんですが、最初に依頼されたときはどのように思われましたか?

KEI 最初は、頂いたメールの内容を読んでも何を言っているのかわからなかったです(笑)。

熊谷 そうですよね(苦笑)。

KEI 『VOCALID』といわれても何のことか全然わかんなくて、とりあえずパソコンのソフトのパッケージのイラストを描くんだなぁくらいの気持ちでしたね。

――クリプトンさんから、KEIさんに依頼されたのはいつごろですか?

熊谷 今年の3月か4月くらいですね。

――その時点で、クリプトンさんの中では『初音ミク』のコンセプトはばっちり決まっていたのでしょうか?

熊谷 いえ、そんなことはなかったですね。

KEI まだ名前も決まってない状態から絵を描いてましたからね。

――では、キャラクターの外見の漠然としたイメージもなかった?

YAMAHA DX7
1983年に発売されたデジタルシンセサイザー。当時は珍しいものだったFM音源を搭載し、その未来的なサウンドが多くのプロミュージシャンやアマチュアに指示され、現在においても名機として称えられている。
  1. ⇒DX7 | DESIGN | ヤマハ株式会社
     DX7のデザインについてのページ

熊谷 わりと早い段階からシンセサイザーのデザインを意識したキャラクターだというイメージはありましたが、それ以外は特にはなかったですね。VOCALOIDシリーズのサウンドエンジンを開発されたのはYAMAHAさんですし、初音ミクの開発コンセプトの一つとして上がっていた、近未来的なエッセンスの一つとして、名機として知られるYAMAHAのシンセサイザー「DX7」のイメージを盛り込んでみようと考えてみました。発売当時「近未来的」と評されたDX7の尖がったイメージがDTMソフトとしての『初音ミク』のイメージとクロスしたので、この感覚はぜひ盛り込んでくださいと。

初音ミク

KEI シンセサイザーとか、全然わからなかったですからね(笑)。クリプトンさんからいただいた資料から色のイメージをつかむぐらいしかできませんでした。

――とはいえ、色やパーツのデザインなど、実際の『初音ミク』デザインからは、YAMAHAのシンセサイザーをリスペクトしている気持ちが強く感じられるものになっています。

熊谷 かなり細部にこだわってデザインの注文をお願いしまいたからね。そのぶん直しも多くて、かなりKEIさんにはご迷惑をおかけしたと思います。

――デザインを詰めていくにあたって、北海道と東京という離れた場所での作業で細かい調整をしていくことは大変ではありませんでしたか?。

熊谷 そうですね、実際にデザインをお願いしてから、直接お会いするまで一ヶ月くらいありましたから(笑)。コンセプトを伝えつつ、資料を差し入れたりと、メールで色々細かいやり取りはしていたのですが、やはり「VOCALOID」というソフトが特殊なものなので、それを説明することが難しくて苦労したというのが正直なところです。実際、いきなり「PCが歌うんです」って言われても、ピンとこないですよね。

KEI 「歌う」と言われても、こんなに自然に歌うと思ってなかったんですよ。いわゆる合成音のイメージで、機械っぽい声が細切れになるのかと思ってて。

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