ライトノベル&イラストレーション外伝 消えたライトノベル作家その1 江古田東京砂漠にまぼろしのぶらじま太郎を見た!(総集編)

江古田東京砂漠にまぼろしのぶらじま太郎を見た!(総集編)

1.江古田「まんが画廊」から全ては始まった

「そもそも、ぶらじま太郎先生はどうして『東京忍者』を執筆することに?」そう問う私に「俺を先生って呼んだり、敬語とか使うのはやめてよ」と前置きした上で、ぶらじま先生、もとい、ぶらじま氏の話は、氏が大学生であった1980年前後に遡って始まった。

昔、このあたり(江古田)に「まんが画廊」っていう喫茶店があったんだよ。俺は学生のころからそこの常連だった。

で、マンガ家のゆうきまさみさんや、後に『宇宙豪快ダイザッパー』(富士見ファンタジア文庫)を書くとまとあきなんかが江古田に住んでいたせいもあって、そこにいけば誰かいるって感じになっていたんだよね。

映画なんかでも、学生の集団だったのが、誰かが売れると連鎖的に業界に入っていくってことがあるよね。それの江古田版が「まんが画廊」だった。

究極超人あ~る(1)
究極超人あ~る
私立春風高校光画部(写真部)に集う、アンドロイドR・田中一郎をはじめとした部員やOB(その多くは、ゆうきまさみの知人がモデルとなっている)の面々の日常を豊富なパロディとともに描いた作品であり、単なる人気マンガにとどまらず、80年代後半のオタク文化を象徴する一作と言える。「マニア向け作品」ではなく、「マニア向け作品を観たり読んだりしているマニアたちを描いた作品」の先駆者であり、本作がなければ、おそらく『げんしけん』も『らき☆すた』も存在しなかっただろう。それくらい重要な一作なのである。たぶん。
とまとあき
小説家として以外にも、フリーランスのプロデューサー、ディレクター、編集者、ライター、フォトグラファー、イベントの企画、MCなど、多彩な経歴を持つ人物である。90年代には、イメージアルバムやラジオドラマCDなどをブームに先駆けて手がけており、現在、全盛となっているコンテンツのメディアミックス展開の素地を作った人物の一人と言える。

さっそく驚く私。

ゆうきまさみと言えば、『究極超人あ~る』や『機動警察パトレイバー』で知られる人気マンガ家であり、とまとあき、と言えば、その『あ~る』に登場する、たわば先輩のモデルではないか!

マンガ、アニメの歴史を振り返ると、時折、稀有な才能をもった人々が集い、それを伸ばしあうことで、やがて業界全体を一変させていく人材を輩出していく「場所」が存在していたことがわかる。

もっとも有名なのは、手塚治虫、石ノ森章太郎(当時は、石森章太郎)、赤塚不二夫、藤子不二雄らが集ったアパート・トキワ荘だろうが、ほかに岡田斗司夫や庵野秀明らが立ち上げた、GAINAXの前身となったSF専門店・ゼネラルプロダクツなども有名だ。

そして、ぶらじま氏が口にした「まんが画廊」もその一つ。この喫茶店に多くのマンガ家や業界人が集い、『究極超人あ~る』をはじめ、多くの作品が生み出されていった……らしい。

……ということは、私も、ライターのはしくれとして噂くらいは聞いていたが、しかしまさか、その生き証人に出会えるとは。そしてまさか、それがぶらじま太郎氏だとは!

ゆうきさんのほかにも、しげの秀一とか、井上伸一郎(現・角川書店代表取締役社長)とか、白山隆彦(元・富士見ファンタジア文庫編集長)もいた。いまはみんな偉くなったり有名になったりしちゃったけど、当時はみんな、学生だったり、売れないマンガ家だったり、安月給のサラリーマンだったりしてたんだよね。そんな連中が、遊び半分で映画『機動戦士ガンダム』(1981年~1982年)の宣伝の手伝いとかをしていたんだよ。サンライズも近く(上井草)にあったし。

まるで、飲み友達のことでも話すように(いや、実際にそうだったのだろうが)ぶらじま氏の口からぽんぽんとでてくる、すごすぎる固有名詞に圧倒される私である。

気を取り直して解説すれば、1970年代後半から80年代初頭、アニメという文化は、まだまだ「小さな子どもの見るもの」としか思われていなかった。そんな中で『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』といった作品が社会現象とまで言われるほどの大ヒットを記録し、そうした印象を一変させていくのだが、そのブームを支えていたのが、当時、ほとんど社会的に認知されていなかった「年長のアニメファン」による草の根的なファン活動である。

たとえば、よく知られたものとして、映画『機動戦士ガンダムI』の公開直前に、製作会社とファンが一体となり、新宿アルタ前に集った1万数千人のファンによって行われた「アニメ新世紀宣言」などがある。そうした活動にぶらじま氏もかかわっていたのだろうか。

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