コンベンションのススメ ―MYSCON9レポート

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■第2部:田代裕彦先生インタビュー

第2部のゲストは、田代裕彦先生。 『平井骸惚此中ニ有リ』で、第3回富士見ヤングミステリー大賞を受賞し、ライトノベル・レーベルにして、ミステリ・レーベルである富士見ミステリー文庫から2004年にデビュー。大正を舞台に独特の語り口で読者を魅了した本作をはじめ、驚愕の時間ミステリ『シナオシ』や、妖怪サスペンス『セカイのスキマ』などをつぎつぎと刊行。  昨年には、富士見書房の新叢書〈Style-F〉から初の単行本『赤石沢教室の実験』を発表。天才芸術家・赤石沢宗隆の狂気と、彼の恐るべき遺産を描き、活躍の場を広げています。

インタビュアーは『このライトノベルがすごい!』などで執筆しているライターの宇佐見尚也さん。


田代裕彦先生インタビュー

宇佐見 MYSCONといえばミステリ系のイベントなわけで、普段、ライトノベル系のライターをやっている私にとっては、もう、完全にアウェー。どっから石でも飛んでくるんじゃないかと戦々恐々しているんですけど、先生はどうですか?

田代 そうですね、ひどく場違いな感じがします。この話が僕のところにきてから、これは何かのネタじゃないかと、ずっと……。


といった出だしで会場を和ませます。


宇佐見 まずは、作家を目指すようになったきっかけを伺いたいのですが?

田代 ちょっと憶えてないんですよ。気づくと学生時代から、なんだかんだで小説らしきものを書いていた。小説とよんでいいかどうかもわからない殴り書きですが、いつの間にか、作家になれたらいいなぁ、と思うようになっていました。

宇佐見 当時からミステリっぽい作品を?

田代 それが、ミステリのミの字も知らない人間だったんです。当時は、剣と魔法の異世界ファンタジー全盛の時代で、そういったライトノベルらしいライトノベルを書いてました。

僕は、アミューズメントメディア総合学院という専門学校にいて、そこで2年ほど、作家になるための勉強をしておりました。そこでの経験は大きかったと思います。

プロの作家の先生の方がいろいろと語ってくださったんですが、入学した直後に「剣と魔法は、もうありきたりだから書くな」と言われたんですね。そんなこと言われても、それを禁止されたら何を書けばいいのかと(笑)。そこで家に帰って、本棚を眺めてみたところ、けっこうミステリがあるじゃないか、と。実は、どうも自分はミステリも読んでいたらしい、とそのとき気づいた(笑)。一番記憶に残っているのは北村薫さんですね。ミステリっぽいものを書き始めたのはそれがきっかけですね。


しかし、どこまでいってもライトノベルが書きたかったという田代先生は、投稿先に、ミステリとライトノベル、二つの要素を兼ね備えた富士見ヤングミステリー大賞を選び、みごと大賞受賞を果たします。ところがその矢先、レーベルに激震が。


宇佐見 当時から、変な小説ばかり出版して、ライトノベル界のキワモノ・レーベル(笑)として評価が定まっていた富士見ミステリー文庫ですが、田代先生がデビューされる直前の、2003年12月にリニューアルを果たしまして、路線変更し、突如、帯に「L・O・V・E」とのデッカイ文字が出現した。そうした転換期にデビューされたわけですが?

田代 一部では、僕の作品が一番ラブの方へよったと言われていますが、でも、ラブにしろ、ラブにしろ、とうるさく言われたわけではないんです。

宇佐見 『平井骸惚此中ニ有リ』の特徴は、文体と大正という時代設定ですが、そのあたりはどこから?

田代 よく講談調と言われますが、参考にしたのは、無声映画の活動弁士でした。 大正を選んだ理由は、タバコ屋の二階の四畳半に居候する書生を書きたかったんですよ。いまじゃもう見ない存在ですよね、書生、なんて。 うまく説明できるか自信がないんですが、古いものと新しいものが混在している時間といいますか。大正といえば、一次大戦と二次大戦のハザマの時代であり、モダンであり、レトロであるというすごく中途半端な時代ですよね。そういうところに惹かれたんです。なので維新直後の明治とか、あとは、終戦直後の昭和とかも好きです。

宇佐見 『平井骸惚』のあとがきでは乱歩について触れられていたりしますが、乱歩はお好きで?

田代 乱歩はわりとよんでいたほうですね。

宇佐見 ライトノベルらしく、キャラクターも魅力的ですよね。同時代の女の子あり、妹ありとさまざまな属性が網羅されていて。なんていろんな読者のニーズを満たす作品だろうと。このあたりはどのように作っていったんでしょう。

田代裕彦先生インタビュー

田代 ミステリなんで、探偵とワトソン役を用意すればそれだけで物語はできてしまうんですが、さすがにその二人だけで話が進んでしまうのはライトノベルとしてどうなのか、と。やっぱり、可愛い女の子が必要だろう。じゃあ、主人公の周りにいろんな女の子配置すればいいのかな、という方向に考えが行きまして。

宇佐見 ちなみにお気に入りのキャラは?

田代 強いていうなら……平井骸惚の奥さんですね。

宇佐見 ちょっと――握手してもらっていいですか?


年上好きで意気投合したか、二人が壇上で熱い握手を交わします。
……。
……気を取り直して、つぎへいきましょう。
〈平井骸惚〉シリーズは、惜しまれつつも全五巻で完結しました。「主要キャラクターのその後はほとんど決まっている」と田代先生。主人公の川上くんとメインヒロインの涼嬢と結婚、妹の溌(さんずい+發)子嬢は養子へ、などと裏話が語られます。実は溌子嬢を主役にした短編もすでに書かれているとか。いずれ、発表される機会があることを願いたいものです。


宇佐見 その次の作品である『キリサキ』『シナオシ』は、『平井骸惚』を読んでいた人間からすると、これは本当に同じ人間が書いた作品なのか、と驚かされる、ずいぶん毛色の違う作品ですよね。『平井骸惚』にも、人間の愛憎を描いた部分はありましたが、こちらではそれがより前面に押し出されている。これは黒・田代といっていいんでしょうか?(注:『機動戦士ガンダム』で有名なアニメ監督・富野由悠季の作品は、底抜け明るいものからきわめて悲惨なものまで、作品ごとのギャップが著しいことから、明るい作風が白・富野、暗い作風が黒・富野と通称されている。ここでの発言はこれに因む)

田代 どうなんでしょう。僕はそれほど意識していないんですが。 『平井骸惚』は、探偵役、ワトソン役というキャラクターをメインにすえた上で、その周囲に事件を配置するという小説でした。逆に『キリサキ』や『シナオシ』の方は、まずメインに事件があり、その事件にかかわってくる人物を考えていきました。出発点が違うので別の作品に見えるということではないでしょうか?

宇佐見 書いていて楽なのは?

田代 書く楽しさは、キャラクターに依存するんですね。『キリサキ』『シナオシ』に登場するナヴィというキャラは、すごく楽しくて、『平井骸惚』のたいていのキャラを書いてるときより楽しかったです。

宇佐見 平井骸惚の奥さんを書いてるときより、楽しいんですか?

田代 うーん。微妙ですね。

宇佐見 ぼくとしては、そこで奥さんですと即答してほしかったんですが、それはさておき、この二作は、構成にも非常にこっていますよね。正直に申し上げますと『シナオシ』は、一読しただけではわからず、何度か読み返しました。

田代 『平井骸惚』シリーズのトリックは、ミステリ読者にとってはすごく簡単に見えてしまうものでした。そこで、特に『シナオシ』の時は、読者の皆さんをだますために、どれだけ卑劣な手を使うか、頭をひねったんです。

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