ライトノベル&イラストレーション
第三回 富士見書房 大塚和重さん ―ライトノベルをとりまく環境にせまる―
ライトノベルを取り巻く現場を取材してきたライトノベル&イラストレーション。第三回は、秋葉原の書店・書泉ブックタワーのライトノベル・コーナー担当として活躍し、「日本一ライトノベルを売る男」の異名で知られ、現在は富士見書房で富士見ファンタジア文庫・富士見ミステリー文庫の営業として働く大塚和重さんにお話を伺いました。
作家、イラストレーターによって作られ、編集者によって本となったライトノベルが、私達、読者の手にわたるまでには、どんなプロセスが、そしてどんな苦労や工夫が隠されているのでしょうか?
書店員の仕事とは? 営業の仕事とは? ライトノベルを取り巻く環境をご紹介します。
■ライトノベルを売るという仕事~ビジュアルが最大のポイント
大塚さんは、1975年生まれ。『スレイヤーズ!』の空前の大ブームが直撃した世代です。ご自身も、高校時代に『銀河英雄伝説』や『スレイヤーズ!』といった作品に触れたことで、本に関わる仕事を目指したといいます。神田、秋葉原などに店舗を持つ大型書店、株式会社・書泉に入社した大塚さんは、コンピュータ関連書や一般雑誌、一般文芸書などを担当したのち、2003年からライトノベル・コーナーの担当となります。
秋葉原に他の書店がなかった90年代後半に、当時の大ヒット作『スレイヤーズ!』を一冊あたり2000冊売り上げ、現在でも人気シリーズなら500冊近くを売り上げるという書泉ブックタワー。そこでの大塚さんの仕事とはどのようなものだったのでしょう?
大塚:書店員の仕事について詳しく知りたい方はマンガ『暴れん坊本屋さん』(amazon)などを読んでいただくといいと思いますが(笑)、皆さんにとって一番目に付く仕事は、売り場のレイアウト、書籍の陳列ですね。毎日何百冊と刊行される新刊を店頭に並べていきます。
なんといっても、本はまず手にとってもらわなければ売れませんから、そのためにはいろいろの工夫を凝らします。わかりやすいのが「仕掛け販売」といって、同じ本を平台(棚の手前にある、本の表紙を見せて並べられる台)一面にズラっと並べるやり方ですね。おける本の種類は減ってしまいますが、そのぶんインパクトがあります。
一般文芸書と異なるライトノベルの特徴として、大塚さんは、「新刊依存率の高さ」を上げます。新刊の売れ行きが早いため、発売から最初の一週間でどれだけ売れるかが勝負。一ヶ月の売り上げの5割を一週間で達成することが目標といいます。より「手にとってもらう」ことが重要になってきます。
大塚:ライトノベルの場合、やはり手にとってもらえる理由になるのはカバーイラストですね。「この表紙は売れるな」と思った作品が予想通りヒットしていくこともあれば、シリーズを完結させた作家さんの新シリーズの売れ方が、表紙によって全く変わってくることもあります。
特に、全く事前情報のない新人さんの場合は顕著ですね。正直に言ってしまえば、ある新人さんが売れるか、売れないか、というのはイラストレーターさんの力量にかなりの部分がかかっています。ある本を何冊注文するか、というのを決めるのも書店員の仕事のひとつですが、新人さんの場合、発注数を決める前に、イラストレーターさんの名前からウェブサイトを調べる、ということもしていました。