ライトノベル&イラストレーション外伝 平成の奇書、現る!『空想東京百景』ゆずはらとしゆき&toi8インタビュー

平成の奇書、現る!『空想東京百景』ゆずはらとしゆき&toi8インタビュー

■「空想東京百景」の今後、二人の今後

こうして、第1期の連載開始から6年もの長い時間をかけて、〈奇書〉にして〈暗号〉である講談社BOX版『空想東京百景』が現れました。大仕事を終えられたおふたりの近況、そして気になるシリーズの今後の展開について、お聞きしました。

ゆずはら 本当に、toi8さんには、いろいろとご面倒をおかけしました……。そして、6年間、本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。

toi8 いえいえ、こちらこそ。第1期の「空想東京百景」は、自分にとって初めての連載だったんですが、この作品が新しい仕事につながってくれました。次の仕事は、MF文庫Jの清水マリコさん『嘘つきは妹にしておく』のイラストだったんですが、これはメディアファクトリーの編集さんが「百景」を見て気に入ってくれて、声をかけてくれたんです。同書の挿絵が、見開きで横長の形になっているのも、「百景」を意識していたと聞いています。その他にも、この作品をきっかけに、いろんなお仕事が舞い込んできてくれました。結果として、いろんなものを描かざるを得なくなったので、6年の間で、あまり絵は上手くなっていないと思うんですが、作風を広げることはできたと思っています。

ゆずはら この作品は「中学二年生のぼくが読みたかった物語」として書いていたので、発売後の反応で、ぼくと同世代以上の方々に否定的な意見が多くて、若い年齢層の読者さんに好意的な感想が多かったのは、まさに狙い通りというか、嬉しかったですね。

ただ、後者で女性読者の比率が高かったのは、ちょっと予想外でした。担当さんは「toi8さんのどこかアンニュイなペーソス(哀愁)を漂わせた絵柄は、男性よりも女性に受けるのかも知れないね」と話していましたが、確かにキャラクターデザイン的な意識が強いイラストレーターさんは、性的な記号を肯定的に強調しすぎる傾向があって、絵柄から哀愁が失われていることがけっこうあるんです。哀愁は記号化することへの後ろめたさでもあるので、排除した方が男性には受けるんでしょうけど……。

でも、toi8さんの絵柄は植物的というか――そういう動物的に尖った絵柄とは一線を画していますし、キャラクターもあくまで方便ですから、哀愁を失うことがないんです。おかげで、ぼくの方も、性的にストイックで不完全で淋しげなキャラクターたちを安心して作ることができます。

toi8 最近では、ゲームでキャラクターデザインの仕事もさせていただいています。今後も、仕事の幅は増やしていきたいと思っていますが、いつかは、鶴田謙二さんのような、近未来や近過去が現在と絡み合う作品を描いてみたいですね。

「空想東京百景」以外で続いているシリーズでは、化野燐さんの「人工憑霊蠱猫」シリーズ(講談社ノベルス)の挿し絵を担当させていただいてます。このお仕事も「ファウスト」に載った「Beltway~環状線は緑に葬られ」を見た化野さんが気に入ってくれて、依頼が来たんですよ。あと、直近のお仕事では、トクマ・ノベルズEdge新人賞・特別賞を受賞した、大楠太郎さんの『ファイアースターター・暮寧島の火事』という作品の挿絵も描くことになりました。よろしくお願いします。

ゆずはら 講談社BOXマガジン「パンドラ」の山田風太郎トリビュート企画で書いたコラム「オタク・サブカル人間臨終図巻」が連載化したので、その作業を進めています。あと、いくつか新作小説を準備していますが……難航していますね。たまには明るく愉快なドタバタラブコメも書こう、と思っているんですが、何も思いつかないまま一年以上経っていたり……。

「空想東京百景」は好き勝手に趣味のことばかり書いていますから、あんまり悩まないんですが、逆にそれ以外の作品では苦労するようになってしまいました。「空想東京百景」以前はラブコメなマンガの原作ばっかり書いていたのに、言霊が入れ替わってしまったのかなァ……とか書くと、なんだか作家っぽいんですが、まァ、単にぐうたらなんだと思います。

「空想東京百景」第3期のスタート、そして「空想東京百景」第2巻の刊行を期待している読者も多いと思いますが、いかかでしょう?

ゆずはら 「パンドラ」で短い小説を書く予定なので、2巻が出るとしたら、その短編と書き下ろしで構成することになると思いますが、まァ、その辺は担当さんの気分次第ですね。

あと、ガガガ文庫の『漆黒のアネット』は少しだけ「空想東京百景」と設定を共有しているんですが、そういう感じで、同じ世界観で時代や舞台が少しずつ異なる「異聞」的な作品もいくつか考えています。ただ、どちらにしても小説なので、今回ほど奇妙な構成にはならないと思います。

……というのも、原価率が高くて、初刷分が完売してやっと少し黒字になるような本ですから、増刷も簡単にできないということに気づいたんです。ちなみに、担当さんは「読者の方々には高い高いと言われていますけど、むしろ安いんです! 本当は4000円ぐらいにしないと採算が取れないんですよ!」と言っていました。

なので、できるだけ変わった本にしたいなァ、とは思っていますが、「奇書」であることをコンセプトの中心に置くのは今回限り、ですね。それに、今回は執筆以外の作業で時間がかかりすぎてしまったというか――6年でやっと一冊出るようなペースでは、餓死してしまいますから(笑)。

第3期では、いかなる幻想の〈東京〉が、いかなる形式で語られるのか、いまから楽しみです。さて、最後に、そんなおふたりから、作家、イラストレーターを目指す方々へのメッセージをいただきました。

ゆずはら 世の中には大学のゼミとか専門学校とか各種学校とか、いろいろあって、ぼくもいくつか通っていたので、平穏な人生は望まない、と諦めているなら、そういうところに行くのも良いと思います。でも、そういうところで学んだことが役に立つのは、作家になってからで、作家になるまでの過程では、ほとんど役に立たないんですよ。悲しいことに(笑)。

あと、褒められても貶されても――どちらも等しく信用しないことですね。特に、早いうちに評価されたら、それはそれで疑ってかかった方がいいなァ、とも思います。

toi8 そうですね、SNSやHP上など、自分の作品を発表しつづけていればなんとかなるかな? と云う気がします。楽しんでお絵かきしてください。

(2008年6月29日、講談社BOXカフェ「KOBO CAFE」にて収録)

インタビュー:前島賢 加藤アカツキ
構成:前島賢

4/4
トップページへ




  最近の記事

ぷらちなトップページに戻る ぷらちなへお問い合わせ