■「君たちには才能がない」
――現場からのシビアな視点で教育について捉えている立場からすると、専門学校で勉強している学生たちというのはどのように見えますか?
谷口 ええとですね……ズバリ言うと、現段階ではまだ使えません。あくまで「現段階」においては、ですけれど。
――具体的にはどのようなところが?
谷口 以前学生さんたちの前でお話させていただいた時、最初に私、自分がどういった会社にいたかとか、どういった形でアニメ業界やマンガ業界、声優業界に絡んできたかとかを話して、関わってきた業界については大抵のことは答えられます……という自己紹介をした記憶があるんですね。
で、それらについて、どんなつまらないことでもいいから何か質問がありますか? と振った時に、何も反応がなかった。
――つまり?
谷口 「前に出よう」という意識がないと言えばいいんでしょうか。待っているだけなんですよ。私は待っているだけの人間が大成したのを見たことがないんです。
だから、かなり意識を改革させないと、10年もたないだろうと思います。教壇に立たれているヤマサキさんは、そのあたりを鍛え上げることに努力されているのではないかと思うのですが、いかがですか?
ヤマサキ 意識のことは一番最初に言うのはたしかです。それがないと、学校は単なる技術教育の場になってしまう。「こういう手順を踏めばこういうものができる」というのを教えるのはものすごく簡単で、学校としては最低限それだけを教えればいいんだ、という露骨な考え方もあると思うんです。
しかし、もうひとつ踏み込むと、逆に興味さえあれば、マニュアルを読むだけで技術的なことは大抵覚えられるんですよ。実際に僕らは、学校で教わらなくてもできるようになっているわけですからね。
だから、出来るか出来ないかは意識の問題で、自分が何を「分かっていないか?」を、まず理解できる必要がある。学校はそれを教えられる場所でないといけないと思っています。
――谷口さんが実際に仕事の中で指導するときには、新人に必ずすすめることなどはありますか。
谷口 アニメーション制作のテクニカルなところでいうと、私が現場で企画以外のセクションの人たちに対してまずすすめる仕事は、「基礎に当たる」ことなんですね。
――「基礎」といいますと?
谷口 まず、いわゆる社会人の基本とおなじものです。“ホウ・レン・ソウ”=“報告・連絡・相談”は最低限できるようになっててほしい。どのセクションに行くにせよ、これがない限りはコミュニケーションが取れませんから。
――まさに根本の部分ですね。
谷口 作品作りでいうと、「ターゲットがはっきりしていて、やるべきこともはっきりしている作品を徹底してやりなさい」ということですね。今の商業アニメーションは応用編に特化した作品が多いんです。それは仕方のないことなのですが、いきなり応用から入ってしまう新人さんが多いのは問題なんですね。
結局、ここで「応用」ができていたとしても、それによって別の「応用」に行けるかと言ったら、基礎がないと絶対にそこは行けないんですよね。基礎の習熟が絶対なんです。
だから、深夜アニメの中途半端な萌えものをやっているくらいなら、基礎を徹底してやりなさい、と言います。よく言うのは「『ドラえもん』さえできれば萌えものは作れる。でも、萌えものが作れても『ドラえもん』は作れないんだ」ということですね。
ヤマサキ そこは難しいところだよね。いろんな意味で……。
谷口 そうなんですけどね。で、私が学校さんにとりわけ望むことといえば、徹底して「君たちには才能がない」ということを伝えてほしいということですね。
ヤマサキ (笑)。
谷口 いや、これ大事だと思うんですよ。
ヤマサキ おっしゃりたいことはわかります。
谷口 君たちは才能が何もない、価値がない人間だということを先に言ってほしい。才能があると思っている人間ほど使いものにならないですよ。「どこどこの作画スタジオにいた」「有名な作品の現場にいた」という要らんプライドだけが肥大化していて、実際には全く使いものにならない人間というのはたまに見かけます。
そういう人よりも、「自分には才能はないが、やりたいのだ」という方が間違いなく伸びます。