「アニメ」で生きていくということ・谷口悟朗監督×ヤマサキオサム監督ロング対談第一回

■僕たちにも才能はなかった?

――谷口さんやヤマサキさんがアニメーション業界に入られた時にも、才能なんかないと思った方が伸びるというような意識はお持ちだったのでしょうか?

わたなべひろし
アニメーター、演出家。『魔法のプリンセスミンキーモモ』(82年版)の作画監督、版権イラストで人気を博し、91年版ではキャラクターデザインを担当。その後も旺盛に活躍を続けている。代表作に『地獄少女三鼎』『クッキンアイドルアイ!マイ!まいん!』など
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ヤマサキ 僕は中学時代から大学までは行く気がなくて、高校も工業高校(熊本工業高校)に入ったんです。

そうしたらそこに、わたなべひろしさんがいらっしゃって(笑)、「マンガ描くのが好きだったら来いよ」とアニメーション同好会に誘われて、「宇宙戦艦やまと」という8ミリ映像を自主制作するのを手伝わされたりしていたんです。

そうこうしているうちに、わたなべさんが簡単にアニメーターになっちゃったので、「なら僕もなれるんじゃないのか?」みたいな感じで業界に入ろうとした。

谷口 (笑)。

ヤマサキ ただ、それで飛び込もうと持ち込みをしたら、いきなり芦田(豊雄)さんから「この絵じゃ無理だね」と言われて。それですごく落ちこんで一度は挫折もした。それでも「絵を描いて飯を食っていきたい」と頑張ったのも事実だけどね。気がついたらちゃんとアニメ業界に入っていた。

芦田 豊雄
演出家、キャラクターデザイナー。スタジオライブ代表取締役、日本アニメーター・演出協会代表。『魔神英雄伝ワタル』シリーズなどのキャラクターデザインで多くのファンを獲得。総監督を勤める『蒼天航路』などで監督、演出、プロデューサーとしても活躍。
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谷口 私の方は映像か演劇でご飯が食べてみたいと、ヤマサキさんと同じように、高校の時に思ったんです。ただ、実写なのか舞台なのかアニメなのか、方向性が特化していなかった。実際に、実写のバイトもしていましたし。

それで日本映画学校に通うようになって、いざ卒業といった時に、自分はアニメだけは手がけたことがないと思ったので、アニメをやってみようかな、と。だから随分不純なんですよね。他の方々に比べると。

ヤマサキ 僕もそんなに純粋でもないと思うけどな(笑)。

谷口 (笑)。あとは、兎にも角にも、当時は実写業界は上の方がいっぱい詰まっていたんですよ。監督には「助監歴十何年」なんて人がぞろぞろいたし、プロデューサー志望もたくさんいた。

「ぴあフィルムフェスティバル」[注:1977年に“映画の新しい才能の発見と育成”をテーマにはじまった映画祭。石井聰亙、黒沢清、中島哲也、園子温、矢口史靖などをはじめ、日本映画界を支える監督が多数輩出されている。]みたいな若手の登竜門も当時からなくはなかったんですが、今みたいにビデオはないから、8ミリで撮るしかないんですよね。そうすると、どうしても金が必要なんですけど、そんなものはどこにもない(笑)。

で、正直な話、のし上がれそうな、ゆるそうなところはどこかと思ったら、アニメだったんですよ。とにかく、最初から監督になることが前提だったんです。

――それはたしかにすこし「不純」(笑)かもしれませんね。

掛須 秀一
編集技師。ジェイフィルム社代表。実写からアニメまで幅広い作品を手がける。代表作に『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『NANA』(実写、アニメともに)など。
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ヤマサキ J.C.STAFFに入ったきっかけはなんだったの?

谷口 あれ、実は掛須(秀一)さんが学校のOBで、そこからの紹介です。

ヤマサキ ああ、掛須さんに引っ張られたのか……。

谷口 アニメ会社に対する就職の伝手がなくて、掛須さんに相談したら「AICとJ.C.という会社に伝手があるけど、AICにはこの前別な人紹介しちゃったから、J.C.でどうだ?」と言われまして(笑)。

ヤマサキ いいねえ、その「どこでもいいです」みたいな感じが本当にいいと思うよ(笑)。

谷口 本当にスタートはどこでもいい感じだったんですよ。

――でも「監督には絶対なろう」と思っていた。

谷口 そう。「なろう」どころか、もう「なれる」と思ってましたね。そこは実はヤマサキさんと同じなんです。なれるにちがいない、自分は天才だ、と思ってました。

だから、序盤の話と矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、個人としてそういう気持ちを持っている分には構わないんですよ。ただ、周りがそれを認めちゃうと、その人は単なるアホになるんです。だから周りは押さえつけた方がいい、と私は思うんですよ。

ヤマサキ なるほど。

谷口 「君たちは才能なんかない」と思われていた方が、バネになって伸びるんじゃないでしょうか。

≪クヤシイ記憶モ手放スナ!第二回は不屈な闘志をバネにのしあがるお話です。≫

(2009年5月27日、アミューズメントメディア総合学院にて収録)

司会:野口周三(AMG学院長)
構成:前田久 平岩真輔

谷口悟朗監督最新作『ジャングル大帝』
9/5(土)よる9:00~フジテレビ系でオンエア!

日本初のカラーテレビアニメでもある、手塚治虫の名作を、脚本・鈴木おさむ(SMAP×SMAP)、キャラクター原案・天野嘉孝(ファイナルファンタジーシリーズ)による大胆な翻案のもと、谷口悟朗が映像化。 フジテレビ開局50周年記念作品として、土曜プレミアム枠に蘇ります。

環境破壊の進んだ20XX年の地球、人工のジャングルで育った白いライオンの子レオと、人間の少年賢一が出会うことで、物語が始まる……。

『ジャングル大帝―勇気が未来をかえる―』は2009年9月5日(土)よる9:00~フジテレビ系でオンエアされます!

フジテレビ開局50周年・手塚治虫生誕80周年記念『ジャングル大帝』番組紹介サイト

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