「アニメ」で生きていくということ・谷口悟朗監督×ヤマサキオサム監督ロング対談第二回

斬新な解釈で魅せた『ジャングル大帝』などの現場でスタッフを引っぱっている谷口悟朗監督。最近では『イタズラなKiss』『地球へ…』などを手掛け、アミューズメントメディア総合学院で講師も勤めるヤマサキオサム監督。

第二回では、情熱を保ってステップアップし続ける秘訣を伺いました。

⇒対談第一回はこちら

■賢いやつから辞めていく業界

――押さえつけられてもはね返す気概が重要なのですね。

ヤマサキ でもね、谷口くんも僕もどちらかというとバネにできるタイプかもしれないけど、圧力をかけられて、耐えて、倍返しするつもりで頑張る人って意外と多くないよ。それは最近に限らず、昔からだと思うけど。

谷口 でも実際に、プロデューサーなり脚本家なり監督なりといった、何らかの「チーフ職」を目指すとしたら、相当タフじゃないと務まらないですよね。

そのチーフについて行くスタッフさんのためにも、チーフはタフじゃないといけないとも思うんですよ。それぐらいで潰れちゃシャレにならないかなあ……。

ヤマサキ そうだね……。

――入社直後の谷口さんもかなり厳しく先輩から接せられたのでしょうか。

谷口 当時のJ.C.STAFFはそれ以前の状態でした。今のJ.C.STAFFからは想像できないですけど……厳しくされるどころか、先輩たちはどんどん辞めていく状態で(笑)。

対談第二回

ヤマサキ そうだったねえ……。まあ、僕の方が5才年上で、業界人としても7、8年先輩だったけど……、でも、優しくていい先輩だったでしょう?少なくとも僕は……。

谷口 えっ?ああ……!?も、もちろんです(笑)。

ヤマサキ 今、無理やり合わせたね(笑)。しかし、そういう機転の利いた話術って重要だよね。

ビデオシリーズの監督と新人の制作として出会ったわけだけど、谷口くんはとにかく学習能力が高かった印象があった。あの頃から「こいつすごいな」と思ってた。まず何がすごいって、言葉が通じるんだもの(笑)。

谷口 (笑)。

ヤマサキ 意外と社会人になって人と話をしてると、日本語が通じないと思うことって多くない?一応普通に話はできてるんだけど、こちらの意図しているところを察知して、そこにうまく話を持っていったり、対話を成立させることって意外と難しいんだよね。

それが出来るためにはまず、言葉が通じないと無理だけど……。

対談第二回

谷口 分かります。

ヤマサキ それができる人間が、実はそれほど多くない。そういった意味で谷口くんはすごく賢いと思ったね。

谷口 よく覚えているのが、入ってすぐに「この業界はできる奴から真っ先に辞めていく」と言われたことなんですよね。業界内のある種の構造であったり、がんばったとしてもどの辺のところまで行くとどうなるのか、早い段階で予測がつくようになってしまう。

ヤマサキ そうだね。怠け者がいっぱい残って、賢い奴から辞めていく業界だって言ったね。

でも、それは言い方を変えれば、ちょっと頑張ればすぐ上に上がれる業界だということだから、上を目指す人間にとってはこれほど都合のいい場所はない(笑)。頭がよくて努力家の先輩たちが大量にいる状況じゃないからこそ、ちょっと努力して評価されると、使える人間ならどんどん使われていく。

たまに「私はこんなに努力しているのに皆がちゃんとやらない」って怒る人がいるけど、そこは怒る所じゃない。ポジティブに考えてみて欲しいよね。そんなことで不満やストレス溜めてもいいことはないですから。

谷口 それは業界内でのポジショニングの問題としても重要ですよね。各年代ごとに足りないポジションはあるので、そうした、いわゆる「ニッチ産業」的な位置を狙っていくということも生き残るためには重要です。

あ、その意味でいうと、大きい会社――いわゆる名前の通った会社や制作スタジオ――に勤めれば勤めるだけ、駄目になる確率は上がります。

――それはなぜでしょう?

谷口 経験上、メジャーと言われる制作会社やスタジオに行った人は、当然、入社した当時は優秀なんですよ。

ですが、だんだんと、そこの会社の名前や実績を自分自身のものとして享受してしまうようになるんですよね。「それはあなた自身が培った社会的立場であったり、まわりからの評価ではない」ということが、社会人になった瞬間から見えなくなってしまう。

組織人として基本中の基本として、給料の最低1.2倍は稼いで、はじめてクビにならずにすむという話がありますよね。アニメ業界では、その大前提のところが分からなくなってしまうというか、学校にいるような気分になってしまうところがあるのかもしれません。

半分以上の新人はそうして駄目になっていきます。辞める前になって「なんで僕がクビにならなけりゃいけないんでしょう?」と言い出す人すらいますからね。

対談第二回

ヤマサキ (笑)。

谷口 私からすれば、どう考えてもクビなんですよ。会社に利益をあげてませんからね。

だから、名前の通っているところに入った人の方が危機感を持ってほしいと思います。

あと、業界内でけっこういるのは、アニメ雑誌で取り上げられるとそこがゴール地点みたいな風に考えてる人がいて。

ヤマサキ え~っ?その感覚は分からないな(笑)。

谷口 世代の違いなんでしょうね。アニメ雑誌を低く見ているわけではありませんが、そこをゴール地点にするのは意識がちょっと低すぎます。

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